6. 個人的な話 (17)
私は、私は、私は、、、。 私は、レイをぎゅぅっと抱き締めてやりたかったよ・・・。
だけど。 だけど、できなかった、、、!
人目を憚って。 できなかったんだ、、、。
何だといっても私はレイの上司に過ぎぬ。 ここでレイを抱き締めたら、事情を知らないレイの家族に誤解を与えてしまう。
私は。 私は咄嗟そうした体面的なことを考えたのです。
・・
抱き締めてやれよ、 体面なんかカンケーねぇじゃんかよ。 抱き締めてやりたいんだろ、 なら、抱き締めてやれよ。
いや、できない。 だめだ、だめだ、だめなんだ。
何故?
私とレイは単なる上司と部下。 特別な関係にあるわけではない。 まして私は妻も子もいる身だ。 誤解を招くような行為はしてはならんのだ。
馬鹿な! 時と場合を考えろ!! 愛した女の哀しみの今この時ぞ!
だめだ。 だめなんだよ。
分かったぜ。 お前には冷たい血が流れているんだ。 一見優し気であたたかいようだが、中身は冷めた人間なんだ。 お前とはそんな奴なんだ。 よぉーく分かったぜ。
くっ。 ならどうしたらいい。
どうもこうもない。 こんな時に懐疑するお前がおかしい、ってことさ。
そうか、、、。 おかしい、か、、、。
・・
私は、そっと。 そっとレイの肩に手を掛けて。 レイの身体を私の胸から離そうとした。 しかし次の瞬間。 その手はレイの背中に回り、、、。
だが抱き締めることなく力なくその手を置いたまま。 レイに言葉を掛けた。
「気をしっかり持って、ね。」
レイはしくしく泣いている。 私の胸で。
私の手はレイの背中に置かれたまま。
、、、動かない。
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