6. 個人的な話 (7)
私はそわそわしている自分に気付き、 煙草に火を点けてからレイに声を掛けました。
「レイちゃん、どう、そろそろ上がったら。」 「ええ、でも、もう少しなんです、」 「そっか、でももう遅い、明日にしたらいい。」
レイは時計を見て、「そうですね、」とぴたと作業を止めました。
「どうする、さっきの話、聞いちゃおうか、ここで。 それともどこかで食事でもしながら聞こうか、。」 「いえ、今日は用事があるんです、ですから、ここで話してもいいですか?」 「ああ、いいよ、じゃ、そこで聞こうか、」
私は接客用の応接テーブルに灰皿を持って移動しました。 レイも後に続いて。
私たちは向い合わせになってソファに腰掛けました。 レイはどことなく硬い表情になって。 私は内心落胆して。
何故落胆したかと言えば、 私には少しばかり下心があったのだ。
夜になれば。 ふたりきりでまた酒でも飲んで。 先だっての話の続きでもできるじゃないか。 というような、下心。
だが、レイは用事があるという。
今夜はレイはデートなのだな。 私の知らない、私が触れることのできない、レイのプライベート。 そのことを瞬時に感じて。
私は落胆した、のでした。
しかし。 こうした私の心中の蠢きは、レイには知られていないのです。
まったく。
そうなのだ。
私がレイに今更ながら恋愛の情を持っていて、 それを鎮めるため忙しさに身を投じていたことも。 レイの個人的な話とやらを何か何かと気になっていることも。 こうして落胆したことも。
レイには一切分かる由もないこと。
彼女の目から見れば私はいつもの工藤純一。 忙しく働くレイの上司。 それ以外の何者でもない、ただの昔好意を寄せた男に過ぎない。
忙しい中で自分のために時間を割いてくれた私に、 感謝の思いこそ持つにせよ、 レイにはそれだけの印象しか私に持ち得なかった筈でした。
如何に私の心が揺らいでいようとも。
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