J (ジェイ)  (恋愛物語)

     Jean-Jacques Azur   
   2004年04月14日(水)    忙しい中、話とは?

6. 個人的な話 (4)


それはいつもと変わらぬ忙しい日の夕方のことでした。
レイが沈痛な表情をして少し話をしたいと言ってきたのは。
一見してただならぬ気配。
いつもと違うレイでした。

しかし私は咄嗟に何の話か思い浮かばなかった。
忙しい最中、話とは?
今すぐじゃないとだめなのか。
あとでゆっくり聞こうか。
とそのくらいの頭で「何だね、」と私は聞き返したのです。

レイは伏し目がちに「いえ、個人的な話なので、ここでは、」と言い、
押し黙って私に言葉を求めるのみでした。

私はと言えばレイへの恋愛の情を断ち切る努力をしてしる時。
あらゆる妄想を振り払い、努めて冷静さを保ち、
距離を置きながらレイと話すべく「後でね、」と答えたのです。

レイは「では、後で、お願いします。」と言って仕事に戻りました。

しんとして何も語らない後姿を私に残して。


・・

個人的な話。
それで思い出すことはただひとつ。
先だっての出張の夜の話でした。

私とレイはそれっきり、その話を終えていました。
顔を合わせても何事もなかったように、普段通りのふたりでした。


そうだな。
よく思い出してみれば。
変わらないようで変わったこともある。

レイは私を単なる上司としてだけで見ていない。

一時は触れ合った心と心。
そのことに確信を得た彼女は私に心許している。
だからあのように、話しがある、と直接に言えたのだ。

個人的な話を。


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