J (3.秘密の恋愛)
6. 個人的な話 (2)
7月に入ると早々に百貨店は値引きセールを始めます。 私たちの持っている売り場は高級輸入品の部類を扱っているので、 そうした時期にも値引きはあまりしないのですが、 この時は商品が薄く古い在庫を店頭に並べていたこともあり、 百貨店のバイヤーと相談しセールをすることにしました。
次シーズンの商品の入荷は早くて7月下旬です。 売り場に穴を開けないがために苦心惨憺する日々となりました。
当時私は北は函館から南は北九州まで、 百貨店の売り場のほとんどを自分で見ていました。 とは言えまだ10店舗もなかったのですが。 それでも、慣れぬ業界で誰に教えてもらうこともなく、 自分ひとりで開拓し広げてきた販売先です。 なんとしても一生懸命にこと当たっていたのです。
出張先から会社に残るレイと連携しながら、 来る日も来る日も商品を入れ替え差し替えして、 朝から晩まで売り場に立って、とんぼ帰りしては商品を補充し、 あっと言う間に7月も半ば過ぎてゆきました。
忙しくて忙しくて。
出張の度ごとに数日家は空けますし、 出張でない日にも夜遅く帰り朝早く飛び出す。
そんな生活が続いていたのです。
無論休日返上でした。 誰に指図されてではなく、休んでいられなかった。
しかし妻の友美さんは不平ひとつ漏らしませんでした。 そんな私を妻として支える、それが彼女の幸せのようでした。 どんな時でも笑顔でくたびれた私を迎えてくれる友美さんでした。
私は後陣に憂いなく仕事に専念できていたのです。
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