J (ジェイ)  (恋愛物語)

     Jean-Jacques Azur   
   2004年01月17日(土)    二人を見るのが辛かったの、

J (3.秘密の恋愛)

4. 無常 (10)


レイは少し考えるようにして。
私はまた掛ける言葉を失い、タバコに火をつけて。

しばらくの間、をおいて、レイが話し始める。

「あの日、私は工藤さんのこと、好きなんだ、って自分で確信したの。
 工藤さんと友美さんが楽しそうに話しているのを見ると切なくて、
 胸が締め付けられるようになって、」
「しかし、君も楽しそうにしていた、」
「ええ、楽しかった、けど、胸の内は違ったの、」
「、、、。」

「覚えてますか?、私がひとり海を見ていた時、工藤さんが来てくれた事、」
「、、、ん?」
「夏季研修の二日目、花火の前、みんなで海岸に散歩に行った時のこと、」
「あっ、」

私はつぶさに思い出しました。
思い出す、というよりは鮮明に覚えている思い出でした。(参照こちら

何故だかひとり皆から離れ海を見ていたレイは、
私と同じ海と空の境のところ、水平線の向こうを見ていたのでした。
そして、明日がそこまで来ている、と同じことを思っていた、、、。

同じものを見て、同じことを考えるレイ。

その時、私はレイの瞳の奥より放つ光に惑い、一瞬自己を失いそうになったのでした。
レイの瞳の奥に吸い込まれそうになって。

そのことは、生涯忘れ得ぬ思い出として私の胸中に残っていたのです。


・・

「あの時、工藤さんと友美さんは皆から離れて、二人っきりで話されていたわ、
 私はそれが辛くって、ううん、二人を見るのが辛かったの、
 みんな、遠くから興味深々で見ていたし、キスするんじゃないかとか、
 そのことも聞くに耐えなかった、だから、ひとり離れて海を見ていたの、」
「、、、。」

「でも、工藤さんが心配して私のところへ来てくれた、、、、うれしかった、、、、。」


ああ、それで合点がいった。
道理で。

でも。

俺はそのことを気づかずに、今日の今日まで、生きてきたんだ、、、。

なんと愚かな男よ、俺、、、。


  < Pre  Index  New >    


INDEX+ +BBS+ +HOME+ 
この物語はフィクションです。

My追加

+他の作品へのリンク+・『方法的懐疑』(雑文) ・『青空へ続く道』(創作詩的文章)