J (3.秘密の恋愛)
4. 無常 (10)
レイは少し考えるようにして。 私はまた掛ける言葉を失い、タバコに火をつけて。
しばらくの間、をおいて、レイが話し始める。
「あの日、私は工藤さんのこと、好きなんだ、って自分で確信したの。 工藤さんと友美さんが楽しそうに話しているのを見ると切なくて、 胸が締め付けられるようになって、」 「しかし、君も楽しそうにしていた、」 「ええ、楽しかった、けど、胸の内は違ったの、」 「、、、。」
「覚えてますか?、私がひとり海を見ていた時、工藤さんが来てくれた事、」 「、、、ん?」 「夏季研修の二日目、花火の前、みんなで海岸に散歩に行った時のこと、」 「あっ、」
私はつぶさに思い出しました。 思い出す、というよりは鮮明に覚えている思い出でした。(参照こちら)
何故だかひとり皆から離れ海を見ていたレイは、 私と同じ海と空の境のところ、水平線の向こうを見ていたのでした。 そして、明日がそこまで来ている、と同じことを思っていた、、、。
同じものを見て、同じことを考えるレイ。
その時、私はレイの瞳の奥より放つ光に惑い、一瞬自己を失いそうになったのでした。 レイの瞳の奥に吸い込まれそうになって。
そのことは、生涯忘れ得ぬ思い出として私の胸中に残っていたのです。
・・
「あの時、工藤さんと友美さんは皆から離れて、二人っきりで話されていたわ、 私はそれが辛くって、ううん、二人を見るのが辛かったの、 みんな、遠くから興味深々で見ていたし、キスするんじゃないかとか、 そのことも聞くに耐えなかった、だから、ひとり離れて海を見ていたの、」 「、、、。」
「でも、工藤さんが心配して私のところへ来てくれた、、、、うれしかった、、、、。」
ああ、それで合点がいった。 道理で。
でも。
俺はそのことを気づかずに、今日の今日まで、生きてきたんだ、、、。
なんと愚かな男よ、俺、、、。
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