J (3.秘密の恋愛)
4. 無常 (9)
「憧れ、でしかなかったわ、工藤さんは大人だったし、上司だし、 好きになっても叶わないこと、分かっていたし、」
「でも、一緒に仕事して、一生懸命働いて、工藤さんに認めてもらって、 時には厳しく注意されたりもしたけど、誉められるとうれしくて、 工藤さんと会社で過ごす日々が、私は楽しかった、幸せだった、、。
、、、夏季研修の日、までは、、、。」
レイはそこで言葉をいったん切りました。 下を向いて、ちょっと苦しそうな表情、何か苦い想い出を思い出したかのように。
「、、、夏季研修の日、、、。」私は思い出すように言葉を漏らす。
レイが続ける。
「そう、夏季研修の日、あの日、私は初めて友美先輩に逢ったの、(参照こちら) とても素敵な人だったわ、優しくて、可愛くて、人当たりがよくて、 工藤さんのお相手として申し分のない、これ以上にない、そんな人だった、、、」
私はまた黙って聞くよりない。 なんと答えようか、言葉が見つからない。 呆然とレイの口元を見つめている。 魂を抜かれたように。
レイが話を続ける。
「けど、私は、、、私は、何故だか悲しくなってしまった、表面上は明るく振舞っていたけど、、、 今思えばあれは嫉妬だわ、自分にないものを持っている、友美さんに対しての、 ううん、劣等感、だから、悲しくなった、そうだわ、そうに違いないの、」
「でも、友美さんはそんな私の心のうちを知らず、私を優しく包むように接してくれた、 いえ、私ばかりじゃなくみんなに、だから、すぐにみんなに慕われたわ、 いい人、なの、友美さんて、本当にいい人なの、素敵な人なのよ、、、」
レイは相槌を私に求めました。
私は押し殺した小さな声で、「ああ、いい人、だ、」と答えました。
それを聞き、レイは、ふっとため息を吐いて、 「そう、いい人、私なんかより、ずっと、素敵なひと。」と言いました。
私は労わるように、 「それは違うよ、レイちゃん、君には君のよさがある。」と言いました。
レイは無言で首を横に揺りました、、、。
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