J (3.秘密の恋愛)
3. 想い出の夜 (2)
飲み始めるとしばらくで思い思いに話しがでます。 自分はどんなに頑張った、あの時はあーだった、こーだったと、 今日一日を振り返りその日の有り様を語り話が弾みます。
今回のように予算の倍も実績が上がったりした席では、 誰しも自分の手柄を皆に聞いてもらい誉めてもらいたくなるもので、 わーわーとうるさいこと、この上ありません。
けれど、そういう酒はとても楽しい酒ですよね。
・・
「でな、そん時そのお客が聞いたわけよ、このスカーフの素材はなんですか、と。」 鏑木さん、だんだん出来上がってきている。 「はいはい、で、なんと答えたんですか、」と私は合の手を入れる。 「きぬ、絹です、と答えた。」 「ほー、」(だから、何、)
「お客さん、これはスカーフはね、いいですか、絹、です、そしてワケが違う、 イタリアのコモ湖っていう美しい湖のほとりで作られた絹のスカーフでしてね、 まぁ、そんじょそこらに売っているものとはワケが違うってワケでね、」 「ほー、わ、ワケが違う、って、ふんふん、」 「あたぼうよ、ワケが違う、」
「で、どんなワケ、なんですか、」 「それを聞くな、クドちゃん、俺には勢いってものがあった。」 「勢い、ですね、」 「お客はその勢いにのって、ま、ワケ分からんうちにそれがいいモノだと信じたワケよ、」 「ほー、また、ワケ、ですね、」 「だっから、あたぼーよ、って言ってんだい、あたりきしゃりきのコンコンチキよ、 おっと、酒がねぇな、おい、安田、追加、お銚子3本、いや、5本だ、ウィっと、」
とまぁ、こんな調子、です。
皆思い思いに、皆楽しそうに、杯は進んで。
時間は瞬く間に過ぎて行きました。
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