J (3.秘密の恋愛)
2. 出張 (10)
翌朝5時、時間通りにロビーに下りると、 すでにレイと鏑木さんはソファに座って待っていました。 レイにとっては初めての出張、鏑木さんにとっては初めての仕事、 二人とも勝手が分からず緊張した様子でありました。
「おはようございます、早いですね、」私は二人の肩の力を抜くようにと、 おどけたように大きなジェスチャーをつけて言葉を掛けると、 「おはよう、」「おはようございます、」二人とも笑顔で挨拶を返しました。
しばらく雑談、さて行こうか、と言っても宮川と安田が起きてこない。 おおかた寝坊だろうということで内線で呼び出し、案の定、まだ寝てた。 仕方ない、先に行っているぞ、と言い伝え、私たちはイベント会場へ向かいました。
イベント会場はホテルの宴会場でした。 大ホールと中小のホールを全部使っての広い会場でした。 商品に合わせ私たちの展示ブースは二つに分かれていました。 私たちは指定のブースを確認してから役割分担をしました。
私は輸入衣料担当、レイは輸入雑貨担当と分かれそれぞれ準備をすることにして、 「鏑木さん、取りあえず搬入口に届いている荷物を取ってきましょう、」 と私は鏑木さんを促して荷物を取りに向かいました。 「レイちゃんは、そう、陳列棚を雑巾でふいておいて、」と言い置いて。
搬入口には荷物が溢れていました。 なにせ輸入商社が大なり小なり100社以上集まって行われるこのイベント、 運送会社が一括で配送するシステムになっているとはいえ、 現場は人と荷物が入り乱れ、物ひとつ運ぶにも簡単なことではありませんでした。 我先に準備を終えてイベントが始まるまでの間ゆっくりしたい、 そう考えるのはみな同じ、騒然とした雰囲気の中で準備が進められます。
「あった、あった、これこれ、これがうちの荷物だ、」 私はやっと当社のダンボールを見つけて言いました。 「うへぇ、なんだよ、こんな下のほうか、」鏑木さん。 我々の荷物は他社の荷物の下の下、一番下になっていました。
そこへ息を切らせて宮川と安田がやってくる。 「おはようございますっ、すいません!」 「おはよ、いいよ、その代わり、しっかり働いてもらうからな、」と私。 「はいですー、何をやればいいですか、」と宮川。
それを聞き、私はニヤリとして言いました。 「この上の荷物をどけて、うちの荷物を引っ張り出すんだ。」 「よっし、安田、やるぞ、」 「うっす、」 と宮川、安田、汚名返上とばかり威勢良く荷物を担いでは降ろす。
私はひとつふたつ荷物を持って、 「じゃ、あと頼む、俺は商品の陳列をしているからな、」 と言って会場内に戻りました。
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