J (ジェイ)  (恋愛物語)

     Jean-Jacques Azur   
   2003年12月05日(金)    私は密かにそんなことを考えました。

J (3.秘密の恋愛)

2. 出張 (4)


ビール片手にタバコを燻らし上機嫌の鏑木さん。
まるで旅行気分。
今夜はどこで食事する、明日は道頓堀にいってみたいな、
夜はミナミに連れてってくれるのか、などと。

「いえ、今夜は何処にも行きませんよ。ホテルについたら梅田にでて食事するだけです。
 明日は4時起きですからね。」
「そうか、んじゃ、明日は。明日の夜はどうする。」

「明日は一日イベント会場に詰めっきりですよ。夜はまた梅田で食事。それだけです。」
「それだけって、ねぇねぇ、くどちゃんよぉ、なんか楽しみもあるだろう、」

「鏑木さんに明日の夜その元気があるならば、私はどこでもご案内致しましょう。
 けど、明日は大変なんですよ、朝から売り場を設営して一日中接客して、
 終わるのは夜の7時、そのあと明後日の準備、それでやっとおしまいなんですから。
 人手が足らないので鏑木さんにも売り場に立ってもらいますからね。
 宜しくお願いしますよ。重要な戦力として考えてますから、ね、鏑木さん。」

「あーあー、それは任せておけ、こう見えてもオレは接客が得意なんだ、」
「そっすね、飲み屋のねーちゃん、口説くのうまいですもんね。」
「ガハハ、そう言うな、おっと、もう一本、ビール飲むか、」

と、2本目のビール。私も次いで2本目に。
隣の席でも宮川と安田が、あっと、もう3本目。

レイは、、、
ジュースを飲んでいる。
でもレイにとって初めての出張。
どことなくウキウキしているように見える。

オレもそうだったもんな。初めての出張の時。

私はレイの心の動きを想像して微笑みました。
よかった。
ともかくも彼女を連れ出すことができて。


高卒で就職したレイはそう多くの旅の経験はありませんでした。
会社に入ってすぐ私の下に就き、ここでの仕事に追われ3年、
身近な旅行や季節の行楽などは友人や恋人と出掛けてはいたようですが、
それは限られた範囲での小旅行に過ぎませんでした。

今回のように大阪くんだりまで遠出する、といったことはないようでした。

三島を過ぎて富士山が見える頃には、
レイの瞳はキラキラと輝き、
とても楽しそうに見えたものです。



あれだけ頑張っている彼女だもの。

彼女にはちょっとした旅先での思い出を作ってやろう。

日頃頑張っているご褒美として。


私は密かにそんなことを考えました。




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