J (3.秘密の恋愛)
1. 総合職 (7)
「そうか、大阪ね。うーん、出張か、、、。」 部長は腕組みをして唸りました。
「はい、大きなイベントですし、私ひとりではなんとも、」 「鏑木くんじゃ駄目なのかい?」 「鏑木さんでは無理です、販売もするんですよ。商品知識を持っていて、 かつ、販売能力がある人間じゃないと。」
「他の営業の者は?、他部署に応援を頼むとか。」 「部長。お言葉ですが、今回のイベントは特別なんです。 関西圏の市場でどれだけ当社の商品が販売できるか、今回にかかっているのです。 頭数だけ揃えればいいってもんじゃないのです。」
「うーん、そうか、しかし、会社の規定がな、」 「そこをなんとか、お願いしたいのです。樋口さんの力が必要なんです。 よろしくお願いいたします。」
私は頭を大きく下げました。 部長は腕組みをしたまま考えている。
6月に大阪で販促のイベントがあり、 私は数名のスタッフを連れて出張することになりました。 そのメンバーに私は樋口レイを加えることを部長に申し入れたのでした。
レイの立場は事務職でした。 泊り掛けの出張に彼女を連れて行くのは会社の規定上問題がありました。 しかし、彼女の商品知識、販売能力は他の営業社員に勝るとも劣らないものでした。 私は今回のイベントには彼女の力がどうしても必要でした。
そしてこれを機会にレイを総合職にしてしまえ、 と私は密かに考えて一歩も引かぬ決意で部長に掛け合っていたのでした。
部長が口を開きました。 「で、他のメンバーは誰と言ったっけね、」 「宮川と安田を連れて行きます、矢崎もと考えたのですが、あいにく彼は別の出張です、 それで一番商品知識を持っている樋口さんが必要なのです。」(スタッフの参照こちら) 「、、、そうか。」 「なんとかなりませんか、いや、なんとかして戴かなければこのイベントは失敗します。」 「、、、。」
部長は目を瞑り再び黙りました。
私もまた部長の次の言葉が出るまで黙って待ちました。
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