J (2.結婚)
13. 父の入院 (15)
涙と鼻水で私の顔はぐじゅぐじゅになっていました。
車を運転しながら私は何度も涙を拭い鼻をかみましたが、 拭っても拭っても涙は溢れ、かんでもかんでも鼻水はたれてきました。
誰にも見せることのない涙、そして私の醜態でした。
が、父の入院している病院につく頃には、私はしっかりとなりました。
私はトイレで顔を洗い、鏡の前で何度も明るい笑顔を作ってみて、 よし、これならば心配ないと自分で納得してから父の病室に向かう。
病室に入ると母が待っていましたとばかりの顔で私を迎えました。 私はことさら落ち着いた声で父の様子を聞きました。 「どう?、」と。 母は、え?という顔をしてから、ああ、お父さんのことね、と合点がいって、 「今、寝ているわ、」と答えました。 「そう、」 私はどうしようかな、と思いましたが、父の傍らに行って父に話し掛けました。 「お父さん、お父さん。」 父は目を開けました。案の定、寝てなんかいなかったのです。 「何だ。純一、仕事はどうした。こんな時間に。」
病んでも気の強い父がそこにいました。
「お父さん。仕事は大丈夫、今日は休みなんだよ。いつぞやの代休なんだ。 そんなことよりも、明日ここを退院して別の病院に行くことになったから。 そのつもりにしていてね。・・・お母さんも、ね。」
父は無言でした。 それはどうにでもしてよいという許可のシルシでもありました。 実際には父はそうとうにまいっていた筈です。 なので私は、私に強く見せながらも私に頼っているのだと了解できました。
母も無言でした。 自分ではどうすることもできない事態に直面している母。 私に全てを委ねて自分はただ父の世話をするよりないのだ、 そんなふうに母は事態を見極めているのだと私は了解しました。
父も母も私に全てを委ねている。
私はしっかりとそれを受けとめる。
流しきった涙はもうない。
ぎりりと腹の底に力を入れた瞬間でした。
「大丈夫、全ては大丈夫、だから、ね。」
私はそう言って笑顔を見せてから院長先生のところへ向かいました。
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