J (2.結婚)
12. 指輪 (9)
鏑木さんは場の雰囲気を無視して話し始めました。
「だいたい結婚指輪なんかしている男をみると、 ああ、こいつ、女房の尻に敷かれているな、なんて俺は思う。 それに飲み屋にいったってもてないしな、ガハハ。 くどちゃんの言っていることって、そういうことだろ。」
私は「そういうことじゃなくって、」と慌てて言おうとしました、 が、それよりも早く矢崎が答えていました。
「鏑木さん、それは偏見ですって。今時指輪をするのは普通のことですよ。 もっとも、飲み屋でもてようって言うんであればそれりゃそうでしょうけど。」 「だろ、だろ、だから指輪なんて最初っからしない方がいいんだ、 夏なんか日焼けの跡がのこっちまってよ、飲む前に外してもバレバレさ、」
ハハハハハ、っと大笑いして鏑木さんは私の肩を叩きました。
「鏑木さんは飲み屋でもてるために指輪をしていないんですか?」 楽しそうな顔で杉野佳菜が尋ねました。おもしろ〜い、ってなかんじで。 「なワケないだろ、カッコ悪いから、それだけだよ、」 「奥さん、何にも言いませんか?」 「うちのだって指輪なんかしていないよ、」 「ふ〜ん」 杉野佳菜はなんでかな、という顔付きで鏑木さんを見つめてる。
ここで鏑木さん、顔を引き締めてまともなことを言いました。
「あのね、佳菜ちゃん、夫婦の愛情は目に見えるもので表すだけが愛情じゃないよ、 指輪をしていようがしていまいが、夫婦にとってはたいして重要な問題じゃない。 それがあたかも愛の証しみたいに考えているうちはまだまだってところかな、 ね、佳菜ちゃん、分かるかなぁ、やっぱり結婚してみないと分からんか、」
杉野佳菜は首をすくめてキョロキョロと周りを見ました。 どう答えていいか分からない、そんな様子でした。 話を横で聞いていた安田が口を開きました。
「なんだかうまく誤魔化された、って感じがしますよ、 それっていつも奥さんに話していることじゃないんですかぁ? しょっちゅう飲んで歩いている鏑木さん一流のゴマカシみたいな、」 「何を人聞きの悪い、俺はだなぁ、健全で通っているんだゾ、な、くどちゃん?」
、、、まったくもう、なんでオレに振るの。
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