J (2.結婚)
11. 変貌 (1)
結婚後初めての出社。
友美さんが切迫流産でさえなかったら明るい門出であったことでしょう。
しかしこの事態にあっては淡々として出掛ける私でした。
いつもより早くに起きて、義母に後のことを頼み、 友美さんに一声かけてからさっと身支度を済ませました。 長い休み明けの出社です。 私は一番で会社に着くように考えたのです。
友美さんは玄関の外まで私を見送りに出て、 「いってらっしゃい、」と笑顔で新妻の心を配ってくれました。 私は友美さんの頬を撫で、「うん、大事にしてろよ、カラダ、」と言い、 「じゃ、行ってくる、」と背筋を伸ばして家を出ました。
・・
会社に着くと既に矢崎が来ていました。 「よ、おはよ、その節はありがとう、暫く迷惑かけたな、」 「おう、工藤、早いな、どうだい、新婚生活は?」 「ん、まあな、それより仕事の具合はどうだい?」 「だいたいはうまくいっているよ、レイちゃんも頑張ってくれているし。」
レイ、、、。レイか、、、。
私は友美さんの切迫流産からすっかりレイのことを忘れていたのです。
「そっか、レイちゃんは頑張ってくれてたか、、、。」 「ああ、だがな、ちょっと、うーん、」 「なんだ、その、奥歯にものが挟まったような言い方は?」 「まあ、もう少ししたら彼女が来る、自分の目で確かめるんだな、」
何をもったいぶったことを言っているんだ、矢崎のやつは。
私は気に止めず自分の机に座り机の上を整理し始めました。
、、、片付けながら私は頭の中でレイの事を考えている。
もう何も起こらない、レイと私の関係。 もう全ては終わった、レイと私の関係。 いや、終わったと言うより、始まってもいないんだっけ。
、、、苦笑する私。
それに。 レイどころじゃないんだ、オレは。 友美さんが大変なんだ。 うかうか恋愛感情に揺れ動いているワケにはいかんのだ。
さあて。 仕事だ仕事だ仕事だ! やるぞやるぞやるぞ! めっちゃめちゃ頑張っちまうんだから、オレは!
私は両頬をぴしゃりと叩き気合を入れました。
・・
と、そこへ聞きなれた声。
「おはようございます、工藤係長。」
え?、、、 レイ?
レイちゃん、どうしたの?
私はレイの変貌に目を丸くしました、、、
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