J (2.結婚)
9. 切迫流産 (16)
私たちの新婚旅行はそこで途切れました。
私はその場でなんと答えたか覚えていません。
もう少し、もう少し、辛抱して、と、 祈るように友美さんに話していたようでした、、、。
車は高速を下り、そのまま近所の産婦人科へ。
こういう時に男は無力です。
その場にいるだけ。 ただ待合室でぼおっとしているだけ。
タバコが吸いたくなって、指を唇に当て、はぁとため息をつくだけ。
友美さんの方が意外にしっかりしていました。
私に、「純一さん、心配しないで、なんともないから。」と 私が逆に励まされたりしたほどです。
「おなか、痛くないの?」 「大丈夫、車から降りたらなんだか楽。」 「でも、さっきはとても辛そうだったよ、苦しそうだったよ、」 「さっきは、うん、つらかった、でも今は平気、」 「じゃぁ、大丈夫?」 「たぶん、。車に酔っただけかも知れないし。」
受付がすんで友美さんは私に告げました。
「ね、純一さん、お願いがあるの。」 「何、何、何でもやるよ。何でも言ってくれ、」 「アイス食べたい、」 「アイス?」 「うん、なんだか冷たいもの食べたいの、」 「だけど、おなか痛いんじゃないの?」 「、、、今は、痛くない、だから、ね。お願い、」 「分かった、待ってて。アイス、オレに任せておけ!」
私は自分ができる唯一の仕事を貰いうれしかった。
力いっぱいアイスを買いに行きました。
近くにパン屋を見つけ勢いよく入り言いました。 「いちっばん、おいしいアイス、下さい!」
パン屋の店員はびっくりしていましたが、 私にとってはこれこそ唯一できる仕事なんです。 どうして力が入らないことがありましょう。
ともかく人気があるというアイスを買い、 力いっぱいお金を払い、 力いっぱいアイスを握り締めて、 私は急いで病院に戻りました。
しかし。
友美さんは既に診察室に入ってしまっていました、、、。
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