J (ジェイ)  (恋愛物語)

     Jean-Jacques Azur   
   2003年05月10日(土)    友美さんはくたびれているのさ。

J (2.結婚)

9. 切迫流産 (5)


「起きたんだ、布団なんてそこに畳んでおけばいいよ、
 どう?、君も風呂入ってきたら?、さっぱりするぜ、」

私は明るく友美さんに声を掛けました。
友美さんは布団をあげながら、
「ええ、でも、」と気乗りしない返事をしました。

見ると冴えの無い表情をしていました。



「どうしたの?、気分でも悪いの?」
「ううん、」
「顔色が冴えないぞ、」
「そう?、でも、大丈夫、ただちょっと、、、」
「?」
「ううん、やっぱり、大丈夫、」


ああ、また友美さんははっきり言わない。

友美さんはいつでも私に心配を掛けまいとして、
よっぽどじゃない限り弱音を吐きません。

私はそうした友美さんの胸の奥の奥を推量して、
次の行動を考えるのが常でした。いつでも。今も。



私はこの時友美さんは“くたびれている”と推量しました。

結婚式、二次会、新婚旅行、初夜、、、激しいSEX、、、
身重の彼女にとってはきついスケジュールだったはずです。

そしてまた私はこう推量しました。
友美さんは昨夜飲めないアルコールを飲んだ。
それがために若干の“二日酔いの状態にある”のではないかと。


“くたびれている”、“二日酔いの状態にある”、、、のであれば、
、、、そうだ、風呂だ、やっぱり、風呂に入るに限る。

私は友美さんを推量しこう結論を出しました。


「トモミさん、いいからオレの言うことを聞いて、風呂に入っておいで。
 君はたぶんくたびれている、そして若干アルコールが残っている、
 だから顔色が冴えないんだ、たぶんね、ほら、タオル、」

私はそう言って友美さんにタオルを渡し、肩を押して促しました。
友美さんは私の勧めに逆らうことができずに、
「、、、じゃ、入ってくる、」と素直にタオルを受け取り部屋を出て行きました。



(・・あとあとで聞いた話ではこの時既に友美さんは下腹部に痛みがあり、
 なんらかに異常を感じ不安を持っていたとのことでした。

 ですが友美さんはそのことを私に伝えることによって、
 せっかくの新婚旅行が、台無しになってしまうことを恐れたのです。

 ただでさえ私が楽しみにしていた南の島をキャンセルしているのに。

 ちょっと自分が我慢すれば、、、

 そう思って私にそのことを告げられなかったと、
 あとあとでそのことを聞いた私はただ溜息がでるばかりでしたが・・)


しかし、、、。

その時の私はそんなことは知りも知りません。
努めて明るく都合のいいように考える愚かな私しかいませんでした。


友美さんはくたびれているのさ。
アルコールが少し残っているだけさ。
風呂に入ってゆったりすれば大丈夫さ。


そうさ、そうさ。


そうだなぁ、
まだ時間あるし、、、喉が渇いたし、、、

ビールでも飲んで迎え酒、しちゃおうかな、っと。


そうさ、そうさ。

新婚旅行なんだもん、楽しくいかなくっちゃ。


(、、、愚かな私。)



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