J (2.結婚)
6. 錦ヶ浦にて (1)
熱海の市内を抜け、私たちは3時過ぎに錦ヶ浦に着きました。
切り立った断崖絶壁、投身自殺の名所も今は昔、
遊歩道も整備され観光客で賑わう熱海有数の景勝地です。
私は学生時代に自転車で一人旅をしていました。
初めてこの地を訪れたのも自転車ででした。
雨模様のその日、観光客も疎らで私はとぼとぼ遊歩道を歩き、 初島が霞んで見える絶壁の展望台で、永い時を過ごした思い出があります。
青年のひたむきな情熱を心に秘めていたその頃。
私には様々に考えるべきことが多くあったのです。
駐車場に車を止め、私と友美さんは連れ立って遊歩道に向かいました。 その日は晴れ渡ったいい天気でしたので、遠く水平線が望まれました。
私は友美さんの足元を気遣いながら、一歩先を歩き、 そして振り返るようにして目に入るものを説明してあげました。
観光ガイドのように。
友美さんの先ほどの涙の跡はもう消えていました。 私が楽しそうに話し掛けると、楽しそうに答える友美さんでした。
私の心の中の葛藤ももう消えていました。 ただ目の前にいる友美さんをのみ気遣う私でした。
いや、正確には友美さんともうひとり。
友美さんのおなかの中にいる新しい命を気遣う私、、、でした。
歩きながら私は何度も何度も、
大丈夫?
と声を掛けました。
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