J (ジェイ)  (恋愛物語)

     Jean-Jacques Azur   
   2003年04月01日(火)    6. 錦ヶ浦にて

J (2.結婚)

6. 錦ヶ浦にて (1)


熱海の市内を抜け、私たちは3時過ぎに錦ヶ浦に着きました。

切り立った断崖絶壁、投身自殺の名所も今は昔、

遊歩道も整備され観光客で賑わう熱海有数の景勝地です。


私は学生時代に自転車で一人旅をしていました。

初めてこの地を訪れたのも自転車ででした。

雨模様のその日、観光客も疎らで私はとぼとぼ遊歩道を歩き、
初島が霞んで見える絶壁の展望台で、永い時を過ごした思い出があります。

青年のひたむきな情熱を心に秘めていたその頃。

私には様々に考えるべきことが多くあったのです。



駐車場に車を止め、私と友美さんは連れ立って遊歩道に向かいました。
その日は晴れ渡ったいい天気でしたので、遠く水平線が望まれました。

私は友美さんの足元を気遣いながら、一歩先を歩き、
そして振り返るようにして目に入るものを説明してあげました。

観光ガイドのように。


友美さんの先ほどの涙の跡はもう消えていました。
私が楽しそうに話し掛けると、楽しそうに答える友美さんでした。

私の心の中の葛藤ももう消えていました。
ただ目の前にいる友美さんをのみ気遣う私でした。


いや、正確には友美さんともうひとり。

友美さんのおなかの中にいる新しい命を気遣う私、、、でした。


歩きながら私は何度も何度も、

大丈夫?

と声を掛けました。



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この物語はフィクションです。

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