J (1.新入社員)
6. 初めてふたりで飲んだ夜 (4)
いくら安全パイと言ったって、 いくら婚約者がいるからと言ったって、
いくらオジさんと娘くらいに、 トシが離れているように見えるからと言ったって、
考え過ぎかもしれませんが、 私はレイとこの時間に二人きりで食事に行くのは抵抗がありました。
レイだって困るだろうに、こんなオレと一緒に、夜遅くまで二人きりでデートじゃ。
私はそんなふうに思ったのです。
(実はデートじゃなく、先輩が部下を食事に連れて行くだけのことなのですが、)
なので私は、どうする?、って、
顔で聞いたのです。
なのにレイはきょとんとして、
首を傾げていいような悪いような微笑みを返してきた、、、
(日中ずっと同行していた私とレイ、 昼の食事も一緒に取って、 一休みする喫茶店でも一緒に過ごし、 そして夕食も一緒じゃ息が詰まらないのかい?)
私はこう聞いてみたい、そう思いましたが、 何故だかもう一人の私がそれを口に出すことを止めて、
「よっし、さっさと仕事を片付けて、メシ食いにいこう、 せっかく部長が経費使っていいって言ってんだから、な、」
と、いきいきとした声でレイに言いました。
レイはニッコリして、 「ハイ!、工藤係長、」と、はっきりとした声で言いました。
であれば、と、
私たちは、そそくさと仕事を切り上げて、
まだ残っていた連中に威勢良く「お先!、」「お先に失礼します!、」
と、声を掛けてから事務所を出て、すし秀に向いました。
この時点では、私とレイの関係は、 単なる上司と部下、それ以上も以下もありませんでした。
私はレイを部下として親愛の情でもって彼女を思い、 たぶんレイは私を、 上司として敬愛する情でもって私を慕っているに過ぎなかったと思います。
ふたりはすし秀のカウンターに並んで腰を下ろしました。
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