J (1.新入社員)
2.夏季研修 (3)
その年は明けそうで明けない梅雨が続き、 7月の終わりになっても気温が上がらない寒い夏でした。
夏季研修の初日は、幸運にも好天に恵まれて、 役のない引率者である私も、ホッと胸を撫で下ろした記憶があります。
海までは貸切のバスでいきます。 大型バスが会社の前に横付けされ、 引率者、引率者家族、新入社員が揃いました。
新入社員は総勢13名おりました。 男子が8名、うち大卒が4名、高卒が4名、女子はみな高卒で5名でした。
引率者家族には小さな子供もいて、 研修と言うよりも、泊まりがけで海水浴に行くという雰囲気です。
会議室で出発前のミーティングをし、 総務部から諸注意を説明され、 社長から長い退屈な訓示を戴き、 やれやれとしたところで、いざ、出発です。
バスに乗り込む前に、 私は婚約者の友美さんにレイを紹介しました。
「トモミさん、この子がレイちゃん、だよ、えっと、樋口レイさん。」
友美さんはニコニコしながら挨拶しました。
「よろしくおねがいします、○○友美です。 レイちゃん、あなたのこと純一さんからよく噂を聞いているのよ。 だから初めて会った気がしないわ。」
レイもニコニコしながらぺこりと頭を下げ、
「センパイ、よろしくおねがいします、樋口レイです、 友美センパイは総務部にいらっしゃったんですってね、 私もお噂はたくさん聞いています、」
「いい噂じゃないでしょう?」と、友美さんが聞くと、
「とんでもありません、みんな友美センパイは優しくっていい人だって、、、 工藤さんにはモッタイナイくらいの人だって、、、 あ、工藤さん、ゴメンナサイ、」 レイは手のひらを口に当て、上目遣いに私を見ました。
私はそんなことはどうでもよかったのですが、 話をあわせ、おどけた様子をして、
「ちぇ、まあいい、さ、バスに乗ろうぜ、」 と、うながすように言いました。
バスに乗り込みながら友美さんはレイに、
「レイちゃん、センパイはよしてね、 もう私は会社の人間じゃないんだから、ネ!」 と話かけ、レイは、 「ハイ、気をつけます、センパイ、あ、ゴメンナサイ、」 と言ってシマッタと頭をこつん、で、ふたりでクスクス笑い。
私はこの二人、なんだか明るいけどなんだかな? とばかり思っていましたが、 これもまた、どうでもよいことなので、ほっておきました。
当時、私は30歳になったばかり、 婚約者の友美さんは22歳になったばかり、 レイは3月生れでしたので、まだ18歳でした。
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