J (1.新入社員)
2.夏季研修 (2)
「工藤君、毎年7月の終わりに、新入社員対象の夏季研修があるのは知っているね。」 「はい、勿論です、私も新入生の時に参加しましたから、」
(また部長はヤブカラ棒に何を言うんだろう?、この忙しい時に。)
と私は一瞬思いましたが、そうか、レイのことだな、とすぐに察しました。
「あ、樋口さんですね、大丈夫です、仕事の都合はいつでもつきますから。」 「うんうん、そうそう、樋口君、も当然そう、」 「樋口君、も、ですって?どういう意味でしょう、その、も、って言うのは?、」 「いや、君も引率として参加してもらうよう、総務から依頼があってね、、、」
夏季研修には、部長クラス、課長クラス、 そして私のような係長クラスの人間が、 それぞれ引率として参加することになっていました。
男女別に大部屋で宿泊するため、 引率者は既婚者が原則で家族同伴で参加します。
研修とは名ばかりで、海に行って2泊3日、 寝食を共にしながら遊ぶだけなのですが。
「しかし、私はまだ結婚はしていません、予定はありますが、」
私は疑問を持ち質問をしました。 部長はニヤリとして、ちょっと私の顔を覗き込むようにいいました。
「総務部の配慮だよ、君。君の婚約者は総務部の出身だろう。 何でも君は忙しい、ろくにデートもしていないんだろう。 いくらかでも一緒の時間を作ってやろうという優しい配慮さ。 もっとも君への配慮というより、婚約者の○○さんへの配慮のようだがね。」
私は顔を赤らめました。 部長はどうだと言う顔で話を続けました。
「たまには息抜きして恋人と楽しんでこい。 もっとも、夜は別々の部屋になるのでかえって寂しいかも知れんがな。」 「そんな私的な理由でいいんでしょうか?」 「いいんだよ、君は我が社のホープだ、 その君への会社からの結婚前祝とでも思ってくれたらいい。 それに、樋口君もいる、 君のセクションから参加するんだから大義名分にもなる。 どうだ、行ってくれるね。」
「はい、ありがとうございます。」
こうして私は、私と、私の婚約者と、レイを連れて、 夏季研修に参加することになったのです。
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