J (1.新入社員)
1.面接 (1)
その頃、私は中規模の輸入商社に勤めておりました。 今よりも10年近くも前のことです。
当時私は新規事業の中心人物として抜擢され、 結婚も秋に控え前途洋々たるものでした。
「工藤君、ちょっと、」 私はある日直属の部長に呼ばれました。 (工藤、というのは、私の本名です。)
「なんですか?、部長、」 「これを見たまえ、」 と、部長は私に一枚の履歴書を渡しました。
「もし、君がよければ、この子を採用しようと思っている、 人事の方から寄越してきたんだが、ね。」 「今年の内定者はもうとっくに決まっていると聞いていましたが?」
実は私は自分の下に就く女性の採用を部長にお願いしていました。 何故なら、つい数ヶ月前に、仕事が辛いと言う理由で、 いきなり前任の女性スタッフが辞めてしまったばかりだったからです。 しかし、その女性の退職が突然であったために、 今年の補充は難しいと人事から断られた経緯があったからです。
「なに、なんでも、この子の学校の就職の先生から、 たっての頼みがあったそうでな、 うちとしても毎年優秀な人材を送ってくれる学校なので、 無碍にもできないっていうことだそうだ。」
私は履歴書をまじまじと眺めました。
セーラー服に身を纏い、緊張した硬い表情、 どこにでもいそうな女子高生、 くせのある字、ん?、
「部長、経理部志望って書いてありますよ、」 「う〜ん、そうなんだが、もう、経理の方では決まっていてね、 一応、人事としては、こちらで判断してから対処するそうだ、 でな、今度の水曜日に面接に来るそうだから、 工藤君、会ってみてくれたまえ。君の下に就く子だからな。」 「ええ!?、私が面接するんですか?」 「いや、面接は人事課長と私でやる、君は仕事の説明をしてやって欲しい。」 「はぁ。」 「じゃ、たのんだぞ。」
私とレイはその時初めて顔を合わせたのです。
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