絵を見せてもらった。高円寺にある画材屋で、絵の具とスケッチブックを買ったという。
「ジブリ」と言って開いたページには、これまでのジブリ映画のキャラクターたちがところせましと並んでいた。黒いエンピツの陰影だけで表現した、生き生きとした表情が迫ってくる。映画の場面場面を思い出す。こんな大作、いつの間に描いたんだろう。
誕生日が近いので欲しいものを聞くと、「A4のスケッチブック」と答える。「スケッチブックじゃ安すぎるよ。もっと何かないの?」と笑いながら返したら、黙ってしまった。悪いことをしたかな、とこちらも黙る。迷っているのではない。物欲がないのだ。不思議な人だ。
自動車が嫌いだという。それでもたまに、ドライブに連れて行ってくれる。仕事の帰り、家の前で拾ってもらいそのまま真夜中の首都高へ。1周たった700円で、光り輝く東京タワーを見た。レインボーブリッジも見た。人生を生きているとこんなにワクワクすることがあるのかと、心から思った。
仕事に行きたくない前の夜には、よくギターを弾いている。サニーデー・サービス『夜のメロディ』を一緒に歌う。私は音を外しながら、それでも一生懸命歌う。たまに笑う。こちらも嬉しいので同じことを繰り返す。また笑う。
週に何度会っているのか、手はつなぐのか、何と呼び合うのか、指輪は必要なのか、どの指に付けるのか、何回目のデートでどこに行くのか、服の趣味はどの程度合わせればいいのか、ディズニーランドに何度行ったか、おごってもらうのかおごるのか、相手の携帯電話の中身を見るのか。「付き合う」って何なのか。人と分かり合うとは何なのか。私が与えられるものとは何なのか。数年前まで気にしていた多くのことは、全く意味のない問題だと知る。
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