どんなに穏やかな時間を過ごしていても 日が変わる前には 彼女は帰る支度を始める。 彼女と知り合ったのは、夏の終わりくらいだったから すでに3ヶ月が経っていたけれど 彼女はそれまで一度も僕の部屋に泊まったことはなかった。 ただの一度も。
僕は次第に、感情を無視することを覚えた。 泊まっていけば。とは言わなかった。 だって。 なぜなら彼女は、 僕の恋人ではなかったからだ。
この距離感は、ひどく曖昧で。 すぐになくなってしまいそうな危ういものだと、僕は知っていた。 知っていたけれど、それに気付かないふりをしていたのかもしれない。 気付かずにいられたらと、思っていたのかもしれない。
じゃぁな。とだけ言って、彼女を送り出した。
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