short story


2001年01月26日(金)


05-長椅子-
冬は海には行けないので近くの街に行った。
僕と彼女の共通の趣味は読書だったから
本屋にはかなりの時間を割くのが普通だった。
この時、本を選ぶのはお互い別行動をとる。
僕は人と一緒に本を選ぶのが好きではないからだ。
自分のリズムでゆっくり考えながら選ぶのが好きで、
横から、これが面白いとか、あれはつまらないとか言われるのが嫌いなのだ。
いつからか彼女もそれに気付いたようで、
本屋に入るとサッサとどこかへ行ってしまうようになった。

彼女は雑誌などの列を軽く流し見て
最後に、恋愛小説の新刊本のコーナーを念入りにチェックするのが常だった。
僕は漫画とかSF小説とか推理小説とか、
うろうろしていて落ち着きがないと彼女は言う。
「だって色んな本を見たいじゃないか。」と言うと
「本当に読みたい本はそう多くはないでしょ。」と僕を見た。
こんな風に彼女は、物事の本質というか、
必要なものを見極めるような発言をして、たびたび僕を驚かせた。

それにしてもやはり僕の本選びは長いらしく
レジに向かう頃には、彼女は大抵支払いを済ませていた。
その時いつも、本屋の入り口においてある長椅子はいい待合所だった。
いつだったか近くに大きな本屋ができたので
今度からはそこに行くことにしよう。と言ったのだけど
彼女は、「そこには長椅子がないからいや。」と言った。
僕は、もっともだ。と思った。

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日記才人