冬は海には行けないので近くの街に行った。 僕と彼女の共通の趣味は読書だったから 本屋にはかなりの時間を割くのが普通だった。 この時、本を選ぶのはお互い別行動をとる。 僕は人と一緒に本を選ぶのが好きではないからだ。 自分のリズムでゆっくり考えながら選ぶのが好きで、 横から、これが面白いとか、あれはつまらないとか言われるのが嫌いなのだ。 いつからか彼女もそれに気付いたようで、 本屋に入るとサッサとどこかへ行ってしまうようになった。
彼女は雑誌などの列を軽く流し見て 最後に、恋愛小説の新刊本のコーナーを念入りにチェックするのが常だった。 僕は漫画とかSF小説とか推理小説とか、 うろうろしていて落ち着きがないと彼女は言う。 「だって色んな本を見たいじゃないか。」と言うと 「本当に読みたい本はそう多くはないでしょ。」と僕を見た。 こんな風に彼女は、物事の本質というか、 必要なものを見極めるような発言をして、たびたび僕を驚かせた。
それにしてもやはり僕の本選びは長いらしく レジに向かう頃には、彼女は大抵支払いを済ませていた。 その時いつも、本屋の入り口においてある長椅子はいい待合所だった。 いつだったか近くに大きな本屋ができたので 今度からはそこに行くことにしよう。と言ったのだけど 彼女は、「そこには長椅子がないからいや。」と言った。 僕は、もっともだ。と思った。
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