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先日の夜、フランスの*コルス(イタリア語ではコルシカ)島の、蔵醸造、ロゼワインを飲む前に、冷え切った庭にしばし放り出して置き供した。 ロゼは、ピンク色が微妙に採れた場所で違って、このロゼはニッキ色をしていた。なかなか辛口で、晩飯にも良くあった。 そうして、最後の一杯をグラスに注いだら、ガラスの破片どうしが擦れるような、ガシャという音がグラスの中でした。見ると、なんと小さじ一杯くらいのガラス状の結晶がグラスの底に沈んでいた。 すぐこれは、酒石だとは思ったが、あまりにも多いので少し驚いた。急激に冷やしたりすると、酒石(正式には酒石酸水素カリウム)がでる事があるが、庭で冷やしたのが原因だとは思えなかった。
ドイツ、フランケン地方のボックス・ボイテル(Bocksbeutel,山羊の○玉)型瓶(よくつけるなぁ!こんな名称)で知られる白ワインの中に、これとは少し違うが、白い顆粒状のもの(粘液酸カルシウム)が、多く結晶化したのを過去見た事があったが、こんなコーヒー用砂糖状の大きな結晶が、小さじ一杯も結晶化したのを見たのは初めての経験だった。
酒石は、ロッシェル塩とも言い、フランスの港町、ラ・ロシェで調整したところからそう呼ばれる。この酒石は、昭和17〜18年当時、戦争で、贅沢品だった葡萄や、葡萄酒を作っていた日本の葡萄酒業界は潰れかかっていた、それを救った。
酒石(ロッシェル塩)には圧電現象があり、これが潜水艦や魚雷の発する音波をキャッチする、水中聴音機の素材として、昭和17年以降、急速に需要が高まった。地上より水中のほうが、早く伝わる音波の性質を利用し、探知する兵器が、各地の軍需工場で量産され始めた。その技術・情報は、日本海軍がドイツから持ち帰った。そして、海軍軍需工場から、今もある「サドヤ」に、大量の酒石を集めるように申し入れがある。 また、酒石酸には、海水から真水を作る脱塩剤の主原料にもなるため、南方の島で戦う陸軍からも、大量の注文があった。 日本全国のぶどう酒醸造業者が、酒石の結晶体の採集をはじめ、サドヤに集めて精製した。酒石の結晶はワイン樽の中にこびりついているので、樽を分解して採取する。これは終戦間近まで続き、酒石採取は二十数トンに達したと言われている。銃や大砲が、積極的武器だとすると、レーダーや探知機は消極的武器、楯に当たる武器だと言える。そういう意味で、「武器としてのワイン」と題をつけた。
コルスのワインから取り出した酒石の結晶は、薄赤紫の、例えて言うなら、アメジストに赤みを加えたような、結晶だった。
*コルス島…地中海西部にあり、すぐ下にあるジェノバ島はイタリア領。皇帝ナポレオンの生地、平地は少なく標高の高い山々が連なる。最高峰のチント山(2710メートル)をはじめ、2000メートル級の山がそびえ「美の島」と呼ばれている。南西にある、アジャクシオには、フェッシュ美術館があって、ヴェネツィア派やフィレンツェ派によるイタリア絵画の重要なコレクションが、保存公開されている。
参考文献:ぶどう酒物語 山梨日日新聞社編
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