西方見聞録...マルコ

 

 

往復書簡ー虚実の間ー - 2012年08月05日(日)

 往復書簡 湊かなえ著読了。

 「告白」とかの悪意でキトキトの湊節を期待していると、様々な波乱を含み、過去の悲劇が明らかにされながらも、台風のあとの青空のように、意外にも、晴れやかに結末を迎え、びっくりするかも。

 連作のなかの「15年目の補習」では青年海外協力隊員と日本に残った恋人の手紙のやり取りが出てくる。そのやり取りから15年前の事件の真相が明らかになっていく。
 ここにもあるように、あんな悪意キトキトの「告白」書いておきながら、湊かなえは世界で一番平和で幸せといわれる青年海外協力隊員トンガ隊のOGだ(痩せてかえって来るアフリカ隊員や、論争にさらされる中国隊員とちがって、ちょっと緩んで帰ってくるのがトンガ隊員と言われていた。しかし私は痩せてかえって来ると言われるアフリカ隊員だったわけだが全然痩せなかったので単なる都市伝説なのかも)。

 で、協力隊期間中の日本語への飢えと手紙への異様な執着がすごくリアルに本作中に出てくる。そうなのだ。日本語に触れられる機会が限られると人は自ら手紙を書き、その自らが作った日本語を繰り返し読んでから投函するという日本語自家中毒を起こすこともある。その辺さすが元協力隊員(それも湊氏は微妙に途上国ではインターネットブレイク前夜の平成8年度2次隊隊員である。ちなみに完全にインターネット夜明け前だった平成4年度1次隊の私は手紙以外ほとんど本国との文章のやり取りは無かった)リアルな手紙への執着を描いている。

 しかし作中のように、恋人との手紙のやり取りはこんなに核心にぐいぐい食い込んで真実に迫っていったりはしない。2年間手紙のやり取りで遠距離恋愛を維持すると言うのは、豆腐を菜ばしに載せてマラソン走るような危険な行為なので菜ばしで豆腐をぐいぐいせずに、やさし〜く,核心に触れず当たり障りの無い話題で長い文面を埋め尽くしちゃうのである(例「町の測量士が牛に追いかけられながら測量していた」とか、「ケニア人保健師さんに日本で家族計画はコンドームによって行うと言ったら大変馬鹿にされた」とか)。

 町の治安の悪さを匂わせるようなことも「心配するだろうから」と書かなかったり、隊員同士のラブアフェアもやっぱり「心配するだろうから」と書かなかった。

 ところで最後に3連作の後日譚に当たる「1年後の連絡網」という短編が収録されている。ここで描かれた短い手紙のやり取りはまさにリアルに協力隊員の手紙である。巻き爪痛みと対処を情熱を持って語り、そして共通の友人のゴシップに燃える。そうだこれが協力隊員のリアル意味無し手紙だ!

 協力隊OBOGも、そうでない人もかなり楽しめます。お勧め。


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