こわくてきれいな映画。残酷で無邪気。現実と夢。 正反対のものを、何もない麦畑と空だけの村につめこんだ白昼夢。 『聖なる狂気』を撮った監督の映画だがこちらの方がおもしろい。
ここに出てくる登場人物はみな心に傷を持っている。 それは戦争だったり、過去の事件だったり、自分の性癖だったり。 主人公の少年の目からひとつひとつが明らかになっていく。 誰も彼もが傷つきやすく、自分の傷を抱えきれずに他者を傷つけ 何も救いはやってこないのだけれど、美しい風景と優しい音楽が 不思議な調和を生み出している。 解釈はいくらでもできるし、監督の原罪意識はかなり根深いように思うが そういうものを気にしなければ楽しめる映画。
ヴィゴは軍務から帰ってきた少年の兄。 南の海の核実験で放射能を浴びたらしい。 髪が抜け、歯ぐきがら出血し、体重がだんだん減っていく。 いらいらと弟にやつあたりして、優しい兄とは言いがたいが、 物思いにふけった横顔がとても美しい。 弟は兄が大好きで、兄を奪っていく未亡人に嫉妬する。 そして悲劇が訪れる。
同じ年に作られた『悪魔のいけにえ3』で刃物を振り回していた人と 同じ人とは思えません。ヴィゴ。芸風が広いというか、節操がないというか、何と言うか。 この映画の頃、こわいような危ない目をしていたヴィゴが、年取ってちょっとユーモアを 感じさせるようになったことは、本当によかったなあ、と思うのでした。
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