ビー玉日記
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2004年06月26日(土)  戦うオーケストラの宣戦布告

都響支援ネットワーク・コンサートに行ってきた。
(都響が現在直面している問題の詳細はコチラ

普段の仕事をこなしながらの、忙しい合間をぬってのコンサート開催。
都響の楽団員だけでなく、日本の他の楽団やソロで活躍している音楽家が応援で駆けつけた。
演奏家も裏方も全てボランティア。つまりノーギャラ、ってこと。
このコンサートに誘ってくださった楽団員の方はこのところずっと楽器以外のこまごまとしたことで睡眠不足が続いているとメールに書いていた。
それでも、頑張る、とも。
そんな手作りの、急仕立てのコンサート。

中身は本当に濃くて、言葉で全てをうまく言い表すことはできない。
こういう気持ちは、その場にいた人にしか理解できないかもしれない。
人に何かを訴えるために開かれたテーマのあるコンサートは初めてじゃないけれど、こんな風にたくさんの人たちの熱い想いをまともに浴びたのは初めてだ。

ヴァイオリンの小林美恵さんの凛々しい演奏、ステージの上で伸びやかに声を響かせたソプラノの澤畑恵美さんに、最後まで姿を見せることなく舞台裏から歌いかけるテノールの吉田浩之さん。
もの悲しい旋律に心の奥底の怒りを表明したジャズピアニストの佐藤允彦さん。
別のコンサート終了直後に駆けつけた中村紘子さん。譜面も持たずにピアノの前に座ってショパンの「革命」を披露。(パンフレットには、名前だけで作曲者も曲名も空白になっていた。)
音楽室で休み時間に、ピアノが弾ける人がさらっと練習曲を弾いていたみたいに、中村さんにとってはなんでもないことみたいに見えた。だけど胸の中に燃える想いを吐き出すような、強い演奏だった。ピアノに触れていない時は上品で温和な方、という雰囲気なのに。
さすが。カッコイイ。

どの曲を聴いても、音楽で食べていくということは只事じゃないな、と感じた。
これだけのレベルじゃなくては、ステージに立ってお金をもらうことの許されない世界。厳しい。

もうここまで聴いたら、これだけでも充分満足だと思った。
だけど、すっかり最後の一曲にやられてしまった。

ラヴェルの「ボレロ」。
正直に言うと、今まで私はこの曲が好きではなかった。
同じフレーズをずーっと繰り返すだけ。「カノン」と「ボレロ」は面白くない曲、と思っていた。
打楽器にとって「ボレロ」は最初から最後まで同じフレーズを同じテンポで続けなくてはならない(しかも最初は囁くような小さな音からはじまり徐々にクレシェンドしていく)曲で、人間メトロノームにならなくてはならない、ものすごい難曲。
学生の頃選曲で挙がるたび、即答で断固拒否してきた。
私には無理。それだけの腕も根性もない。緊張で死に至る。
その苦労をしてまでやるほどの曲でもないと思っていた。
……恥ずかしながら。

今日の演奏を聴いてわかった。
「ボレロ」のよさはCDでもDVDでもなく、本物を見なきゃわからない。
各楽器が自己紹介をするようにソロで同じフレーズを歌ってつながっていく。
一人ずつ音が重なっていって、徐々に気持ちが昂ぶっていく。
ちょっとずつ人の手を借りて力を得て、百人力、勇気百倍で勇ましく戦いに臨む戦士の行進曲みたいに聴こえてきた。
最後には2階席の私のところまでオーケストラがそのまま歩いて迫ってきそうだった。
納得。今日のコンサートのメインにふさわしい曲は、マーラーでもチャイコフスキーでもなく、この曲でしかありえなかったんだ。

あー、いい演奏会だった。
もっと演奏会に足を運ぼう。
音楽は五感で味わうもの。
あの場にいた誰もが帰り道にそう思ったんじゃないかな。


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