ビー玉日記
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2003年06月22日(日)  歌舞伎鑑賞会

坂東玉三郎が「藤娘」をやっているというので、歌舞伎座にでかけた。
紬の着物が着られるのも今月まで。
今年はどうも春からバタバタしているので長いこと着物を着ることをさぼっていた。(お稽古場では着てたけど)
「今日こそ」と気合を入れて着た。

玉三郎と「藤娘」という組み合わせのせいか、市川染五郎と松本幸四郎の人気かはわからないけど、とにかく満員御礼、って感じの状況。
歌舞伎座はあんまり空調がきかないので、ちょっと気温が高め。
扇子でぱたぱたやると落ち着くくらいの感じでした。
クーラー苦手派の私にはちょうどよかった。

ようやく今週行ける目処がついたので予約を入れたんだけど、遅かったのでやっぱり良い席とは言えないところだった。
私の前の席のお姉さんの前髪が数本、鬼太郎みたいに「ピッ」と突っ立ってて、それが私の視界をさえぎって非常に邪魔。
何度扇子で撫で付けようと思ったか知れない。
時々その前髪越しに舞台を透かし見ることになるんだもんなー。

↓感想。**ネタバレ大あり**

六月大歌舞伎(6/1-25)@歌舞伎座
 昼の部
1.一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき) 一幕
   陣 門
   組 打
2.棒しばり 長唄囃子連中
3.芦屋道満大内鑑 葛の葉 一幕
   機屋子別れの場
4.藤 娘 長唄囃子連中
(主な出演者:幸四郎、勘太郎、染五郎、雀右衛門、玉三郎)


1.一谷嫩軍記
「一谷嫩軍記」のこの場面は初めて見た。
たぶん他の場面を見たことがあったと思う。
モチーフは平家物語で、今日は熊谷直実(幸四郎)と平敦盛(染五郎)がメイン。

冷静に考えると筋書き的には「おいおい、それはありえないだろ」って突っ込みどころ満載なんだけど、面白くするために無茶苦茶な空想を盛り込むのが歌舞伎。そこが魅力なのね。
今日の空想大賞は、浜辺で許婚の敦盛を探してうろうろしてる玉織姫(勘太郎)。
あんなカッコでそこにいるのはおかしいです。
だけど玉織姫がいるから面白くなってるわけです。

この演目で一番おもしろかったのは、直実と敦盛の一騎打ちシーン。
沖にいる平家の船を追いかけて、敦盛が馬で海に飛び込む。
波の中を苦しげに進む馬。
舞台を上手から下手へと横切った後、再び、下手から現れる時、馬も敦盛も急にミニチュア化。
……そう、遠近法を利用して、役者が突然子供に入れ替わったのです。
敦盛を追いかけて海に飛び込んだ直実も、いつしかミニチュアに。
子供同士でちゃんばらシーン。
真剣なんだけど、かわいいです。非常に。

昔の戦い方って基本的に一騎打ちなんだよね。
いやあ、優雅というか、礼儀正しいというか。

そして、結果的には敦盛が負けて、直実が敦盛を討ち首にすることになるんだけど、直実が敦盛の若さ(直実には同じくらいの息子がいた。陣門では染五郎が直実の息子直家の初陣を演じた)とか心がけに情をほだされて、なかなか思い切って討つことができない。
史実(「平家物語」上では)だから結果はわかりきってるんだけど、それ前提でもかなり心を打たれるものがある。
しかも、直実がやむなく敦盛を討った後で、その前のシーンで殺されたはずの玉織姫が虫の息で這い出してきて、敦盛の首を抱えて泣くシーンは、今思い出しても涙が出そうになるくらい。
その場にいると観客が全員静まり返って固唾を飲んでいるのをびんびん感じて、ちょっと呑まれる感じ。
あの一体感というのは、やっぱりお芝居の良さだね。

演出がすごいと思うのは、敦盛が首を討たれて倒れた瞬間、黒子が出てきてぱっと敦盛の首を布で覆って隠して、小道具の生首を用意するところ。
いやあ。完璧です。
そして、直実が敦盛と玉織姫の遺体を運ぶところで、また感心。
直実が運んでると見せかけて、実際には染五郎や勘太郎が自分の足でそうっと動くわけだけど、ちゃんと運んでるように見える。
この動きはかなりの高度テクニック。難易度高いです。

この演目で出てきた平山季重(錦吾)もそうだけど、歌舞伎の悪役って憎めない。
本当に嫌なやつなんだけど、あまりにも悪すぎていかにも悪役っていうのがなんとなくコミカル。
洋画なんかだとたまに本当に気分悪くなるような敵役がいたりするのに、歌舞伎はそういう気分にはならない。
それがいい。

それにしても、いつも思うんだけど、馬役の人って大変だなあ。


2.棒しばり
これは元々狂言なのかな。
狂言舞踊というそうです。

主人(友右衛門)が外出前に悪さをしないように使用人(だよね?)の太郎冠者(勘太郎)と次郎冠者(染五郎)の両手を縛り上げておくんだけど、彼らは酒蔵に入って大好きなお酒を飲もうと苦心する、という話。

突っ込むとすれば、こんな雇い人はクビにすべきだろう、ということくらい?(笑)
両手を縛られた二人の曲芸みたいな踊りがあったりして、純粋に楽しめる。


3.芦屋道満大内鑑 葛の葉
とにかく雀右衛門。
この人、80代なんだよね、確か。
いやあ、お元気ですね。
一人二役の早変わりとか、障子に筆で歌を書き付ける時、右手→左手→口と筆を持ち替えて書いていくところが見所。
人前であんな達筆に書くってすごいなあ。

でもその前までの演目に比べて静かな進行が続くのと、昼食の後だったので、非常に眠かった。
ちょっと休憩(?)。


4.藤 娘
これが見たかったの。
やっぱり玉三郎は別格。
そもそも玉三郎の「鷺娘」をテレビで見たのが、私が踊りをはじめる決定打にもなったわけで。
その日から最終目標は「鷺娘」なわけで。(何百年かかるんだ?)

「藤娘」は、お名取の試験課題だった。
試験は終わっても更に表現をつけるために研究するように言われていて、今でもたまにお稽古をつけてもらっている。
今回これを見ることを師匠に話したら、流派が違うので振り付けは違うけど、雰囲気を見てきなさい、というお言葉。

見たら、師匠の言った意味がよくわかった。
本当に「雰囲気」。
つまりは演技力ということなんだろうけど、若い娘らしさをぷんぷん漂わせてて、実際の年齢とか性別とか完璧に超えちゃってる。

舞台セットは、藤の花が舞台全体にぶらさがってててその中で踊るのは見たことあるけど、今回の趣向は違ってて、銀の箔押しに藤の花が描かれた屏風が舞台上に5枚(?)置かれて、左右に長唄囃子連中。
玉三郎がその真ん中で踊って、衣装替えや小道具を片付ける時は真ん中の屏風の切れ間に引っ込んでいった。
通常踊り手はずっと舞台にいて必要になったら後見が出てきて手伝うわけだけど、それをまったく見せないで、一人で踊りを見せる、という形。
これもまたかっこいい。

隣の席のおばちゃんなんか、玉三郎が出てきた瞬間に感極まってしまったらしい。
その連れのおばちゃんが「涙目になってるよ」と指摘していた。
それくらい、美しいということ。
この美しさを保つための日々の努力を考えると、本当にすごい。

で、踊りの方はやっぱり振りが全然違うんだけど、一番注目は手の動き。
私の今一番の課題はまさに手。
指と手首の使い方ね。
この表現だけでまったく違うものになる。
元々手の動きをきれいにしたくて踊りをやってるんだから、もっと研究の余地ありだよなあ。
玉三郎様の手のきれいなこと。
あんな風に滑らかな動きをしたら、たとえ節々がごっつくて短い指でも長く細い指に見えてしまうかも。
いや、実際、長くて細いのでしょうが。


今回全演目を通してつくづく思ったのが、日本の演劇はすごい、っていうこと。
「一谷嫩軍記」の海の表現、「棒しばり」で必要最低限の小道具しか使わずあとは役者の表現力次第というところ、「葛の葉」の回り舞台、「藤娘」の屏風の使い方。
これは世界一と言ってもいいんじゃないの?
昔の日本人の創意工夫ぶりには本当に感服です。


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