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 この手のなかの真実/ウォーリー・ラム

カバーより
一卵性双生児の兄弟トーマスとドミニクは、私生児として生まれた。トーマスは、19歳のときに精神分裂症を発病し、病院の入退院を繰り返している。1990年の秋、湾岸戦争を阻止すべく神に捧げものをするという名目で、自らの手を切り落とす。

その後1年の出来事を描いていくこの作品では、ドミニクの不幸が語られる。継父からの虐待、母親の死。最愛の女性と結婚するが、赤ん坊は突然死し、それが原因でふたりは別れてしまう。次々と訪れる不幸にドミニクは、教師らしい冷静さで対処していくが、教壇に立っていたある日、許容量を越え、突然嗚咽して崩れ落ち、狂人として警察に連行され、教師を辞職する。不幸に押しつぶされそうになりながらも人生を立て直そうと必死に努力する普通の人々の魂の物語。

本作は、全米の人気番組「オプラ・ウィンフリーショー」で紹介され、たちまちベストセラーリスト全米ナンバーワンにランクイン!全米200万人が感動し、15ヵ国で翻訳出版された、世界的、記録的なベストセラー作品。


主人公は双子の兄弟の弟ドミニクで、彼の周囲には不幸が蔓延しているような話なのだが、読み進めると、意外にも思ったほど暗くない。

さまざまな不幸の中で、最も主人公のドミニクを苦しめているのは、双子の兄との関係が、一生涯つきまとうことだろう。兄を世話するのは、ドミニクしかおらず、それがどれほど彼に重くのしかかっていることか。

でも、こんなことを書いていいのかどうかと思うが、兄の分裂ぶりは奇想天外で、話としては面白いのだ。正直、笑える。しかし、ドミニクの立場になったら、笑い事ではすまない。兄の言動に笑いながらも、笑っちゃいけないかと反省したりして。とても重たいテーマで書かれているのだが、ウォーリー・ラムが、そもそも暗い人ではないのだろうか、重くて暗い印象はあまりまい。

主人公のドミニクが、のちに妻となるデッサに会ったときに、彼女がリチャード・ブローティガンの『西瓜糖の日々』を読んでいたという部分があった。

「難解なんだけど、やめられないの。幻想的な感じ・・・どんどん引き込まれちゃう」

と言うデッサに、ドミニクは、ブローティガンの写真を見ながらこう言う。

「LSDでラリったマーク・トウェインって感じだな」

ぷ!まったくその通りだなと思って、笑ってしまった。誰かに似てるんだけど、外人だからみんな似てるように見えるんだろうなんて思っていたんだけど、そうか、マーク・トウェインがLSDをやれば、こういう風になっちゃうかもね。

しかし、なんでこんなに分厚いのかというと、主人公ドミニクの話だけではなく、ドミニクのお祖父さんの自伝まで、丸ごと書かれているからなのだ。

話はなかなか面白かった(という言い方も変なのかもしれない)が、途中からお祖父さんの自伝が出てきて、これってあり?という感じだった。たしかにお祖父さんの自伝を読むことで、最後にはドミニクの生い立ちが分かるという構成になっているのだが、にしても長い。

自分自身を再認識するという小説はよくあるが、欧米ではポピュラーなカウンセリングの部分が多いのには、ちょっとうんざりだったかも。こんな夢を見たが、それにどういう意味があるかなどというのは、作者が心理学者として本気で分析しているなら読む価値もあると思うが、適当に書いているんじゃないのか?と思ってしまうと、途端にどうでもよくなってしまうからだ。

最後には、中で最も普通でないはずの分裂病の兄(ドミニクは双子の弟)トーマスが、一番まともに見えてきた。それぞれがそれぞれの悩みを抱えていて、それに各自が立ち向かう様子は、辛くもあり滑稽でもあるのだが、奇妙な言動をしているトーマスが、結局は正しかったというような結末は、人間はみな病んでいて、純粋で正しい行いをしているものが、この世の中では狂っているかのように思われるのだろうかとも思えた。

内容説明には、「普通の人々の魂の記録」とあるが、彼らが普通の人々とはとても思えない。父はどこの誰ともわからないし、母はガンに侵されて死亡、継父は暴力を振るうし、兄弟は精神分裂病、それに子どもの死、離婚、同棲相手の不倫などなど、普通の人々には、こんなことはそうそうあるものでもないだろう。このうちのいくつかの経験があっても、これが全部人生の中に入り込んできたら、「普通」ではないんじゃないか?

追い討ちをかけるように、最終的に自分の父親はインディアンだと知ったドミニク。しかも、兄のトーマスはそれを知っていて、知らなかったのは自分だけ。自分はずっとイタリア系だと思っていたのに、実はインディアンの血が混じっていたというのも、かなりの衝撃だろうと思った。インディアンがいいとか悪いとかとういうことではない。人種のるつぼ、アメリカだからこそのエピソードなのだろう。私には、ドミニクの立場になって想像することすらできない。

2004年05月29日(土)
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