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 ストラヴァガンザ─仮面の都/メアリ・ホフマン

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15歳の少年ルシアンが時空を越えて旅をする「歴史ファンタジー」。本書は「ストラヴァガンザ」3部作の第1作にあたる。

21世紀のロンドン。少年ルシアンはがんに冒され、つらい化学療法を続けながらベッドの上で過している。16世紀のべレッツァ。この都はルシアンの暮らす世界と並行して存在するもうひとつの世界(パラレルワールド)にあり、絶大な権力を持つ女公主によって統治されている。ある日、マーブル模様の手帳を父親からもらったルシアンは、突然べレッツァへと時空を越えた旅(=ストラヴァガント)ができるようになる。16世紀のべレッツァで過す時のルシアンは、体調も万全。ロンドンとを巧みに行き来しながら、魔法の師匠ロドルフォからさまざまなことを学ぶうち、女公主シルヴィアを救う大冒険に巻き込まれていく。

圧巻なのは、美しいものを描写する著者、訳者の表現力である。水に浮かぶベレッツァという都そのもの、豪華なドレスやガラスでできた仮面はもちろん、小さな焼き菓子さえもぴったりの表現を与えられて輝いている。花火の打ち上げられた夜空を描写する文章はとりわけすばらしく、頭のなかには尾をひいて水の中に消えて行く花火がいつまでも残るだろう。

本書にはいわゆる「悪役」も登場するが、それ以外の人物も決して清廉潔白で完璧な人間というわけではない。都を治める女公主シルヴィアは優雅で美しく、人々の信頼を集めているが、恐ろしいほど無慈悲で残酷な一面を持つ。ルシアンの師匠ロドルフォは思慮深く教養あふれる美しい銀髪の紳士だが、愛する人の前では嫉妬深いただの男になってしまう。著者は生々しい感情もきちんとすくいあげて描くことで、血が通った人物たちを作り上げている。

また、物語には常に「死」の暗い影が見え隠れする。それは終盤になるにつれどんどん濃くなり、物語を一気に意外な結末へと導いていく。この死の存在もまた、本書にどっしりとした魅力を与えている。(門倉紫麻)

内容(「MARC」データベースより)
ふとしたことで時空をこえる術を身につけたルシアンは、異次元の世界、16世紀のベレッツァへと旅立つ。ベレッツァで出会うふしぎな人たちとパラレルワールドの大冒険がはじまる。



このところ、続けて最近のファンタジーを読んだが、どれも今いちだった。その中で、この作品は、まあまあ読むに耐える出来かなとは思うものの、個人的には好みではない。

内容は上に書いてある通り。ストラヴァガントするという行為そのものに、疑問点がたくさんあって、それがどこまで読んでも解決されないままなのが不満だし、登場人物にもあまり魅力を感じなかった。ルシアンの病気や、死というものが、この物語に必要だったのかとも思うし、なんとなく暗い雰囲気を残したまま終わってしまう。

現実の世界での「死」によって、ロンドンに戻れなくなってしまったルシアンだが(その後、時折元の世界のロンドンへ、ストラヴァガントするのだが)、いずれベレッツァでも死が待っているだろう。命あるものは必ず消滅するのだから、この結末は、むなしい。

2004年04月27日(火)
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