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 二都物語(上・下)/チャールズ・ディケンズ

二都物語 (上巻) 新潮文庫/ディケンズ (著), 中野 好夫
文庫: 338 p
出版社: 新潮社 ; ISBN: 4102030034 ; 改版 版 上巻 巻 (1967/01)
カバーより
フランス貴族の子でありながらその暴政を嫌い、家名を棄てて渡英したチャールズ・ダーニー、人生に絶望した放蕩無頼の弁護士シドニー・カートンの二人は、罪なくしてバスティーユに18年の幽閉生活を送ったマネット老人の娘ルーシーに思いを寄せる。折しもフランスでは、大革命の日が間近に迫っていた・・・。パリ、ロンドンの二都を舞台に展開する華麗な歴史小説。

二都物語 (下巻) 新潮文庫/ディケンズ (著), 中野 好夫
文庫: 357 p
出版社: 新潮社 ; ISBN: 4102030042 ; 改版 版 下巻 巻 (1967/01)
カバーより
パリに革命の火が燃え上がる。ルーシーと結ばれて幸せな生活を送るダーニーに、かつての忠実な召使いから救いを求める手紙が・・・。運命に導かれるようにフランスへ向い、捕らえられ、死刑の判決を下されるダーニー。刑執行の日、カートンは愛する人のために、彼女の夫の身代わりとなって自ら断頭台の人となる。大革命を挟む激動の時代を背景に描く、ディケンズの作品中最も名高い大作。


著者プロフィール
チャールズ・ディケンズ
Charles J.H. Dickens (1812〜1870)

英国サセックスに生まれる。幼い頃から本好きで向学心の強い少年だったが、家計を助けるために学校をやめ、弁護士事務所の使い走りをする。仕事のかたわら速記などの勉強を続け、通信記者を経て、22歳で雑誌「モーニング・クロニクル」に短編を連載。「オリヴァ・トゥイスト」「骨董店」などの代表作はイギリス大衆、ことに下層社会にまで広く読まれ、シェイクスピアと並ぶ文豪と絶賛される。絶筆「エドゥイン・ドルード」を未完のまま急逝したことはあまりにも有名である。


今月の読書会の課題本であるディケンズの『二都物語』。自分で選んでおきながら情けないが、どうにも進まないのだ。でも、下巻の巻末にある中野好夫さんの解説を読んでびっくり!巻末の解説は、だいたいがその作品を誉めるものだが、中野さん、全然誉めてない。「ディケンズは、こうした構成を考えたものはダメである」とはっきり言っている。いや、もっとひどいことも書いてある。「なにせ不得意の芸は仕方がない」ということらしい。なるほど、これじゃ私が先に進まないのも納得。

今のところ、ディケンズよりも中野さんのほうを信用しているから、中野さんはけしてこれが駄作だと言っているわけではないのだが、私の中では、すっかり「これは駄作である」という評価になってしまった。もっとも、この『二都物語』の訳がいいかどうかは、また別の話だが。やはり訳すほうでも、その作品に惚れていないと力が出し切れないのかもしれない。サマセット・モームなどの作品の翻訳に比べたら、どうも中野さんらしくないような気がする。

でも「駄作である」と思ったら、かえってイギリス文学の大家という先入観がなくなって、気が楽になったかも。あとは集中して、猛スピードで読むだけ。ちなみに中野さんも、「よくもまあこんなものを教科書にして英語を教えたものだ」といいつつ、「面白いことはけっこう面白い、楽しい読み物である」と言っているから一応フォローはしているのだが、今更もう遅い。

さて後半は、結局1日というか、半日で読み終えてしまった。「駄作」であると思い込んでいたのは、一応撤回しないといけないだろう。前半あれだけ進まなかったのが嘘のように、一気に読めてしまった。結局ディケンズは、この部分を書きたかったのだろう。語り口が前半とは別人のように、テンポよく滑らかになっている。『大いなる遺産』を読んだときもそうだったが、ディケンズは、会話が多い部分はどうもしっくりこない。しかし、ストーリーを展開させていく語り口は非常に面白いと思う。結局これもそうだった。中野さん曰く「部分的手腕には驚くべきものがある」という、そういう部分だ。

最後はハラハラ、ドキドキして、静かなところで一人で読んでいたら、涙さえ出たかもしれない。中野さんが書いている通り「面白いことはけっこう面白い」読み物だった。モーム流にいえば、余計な部分を削ってもっと短くすれば、名作になるだろう。って、すでに名作と言われてはいるのだけれど、これもまた、発表された時代のもたらした栄光であるらしい。フランス革命に対する歴史的興味や意義づけがようやく盛り上がりかかった時期であったからだ。

というわけで、フランス革命という歴史的大事件を舞台に、パリとロンドンの二都とかけめぐる話なのだが、これは歴史小説ではなく、結局ロマンスであると思う。愛した女性の夫の身代わりになって、ギロチンにかけられるシドニー・カートンの一生を描いたといったところだろうか。たしかにその部分では、報われない愛のために、果たして本当にそんなことができるものだろうかと感心した。そのカートンの犠牲的精神が、フランス貴族の冷酷さや、革命を起こした庶民の残虐さに対比して、素晴らしく高潔に思える。中野さんの解説によれば、「人間の興味の永遠の泣きどころを抑えた主題」である。

ここでフランスの貴族と庶民を出したが、この対決は非常にむごたらしく、凄惨である。不勉強で、史実をよく把握していないのだが、貴族の庶民に対する弾圧も筆舌尽くし難いが、蜂起した庶民もまた無知無学であるだけに、理屈が通らない。ただただ暴力に訴えるのみで、これは読んでいて非常に辛い場面だ。特に革命の発起人とも言うべき宿屋のドファルジュの妻、マダム・ドファルジュの残虐さといったら、もう救いがたいものなのだが、実はこのマダム・ドファルジュには、そうするだけの理由があったのだ。それもまたこの物語の核心というべき部分だろうと思う。


2003年11月29日(土)
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