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 夜の樹/トルーマン・カポーティ

内容(「BOOK」データベースより)
ニューヨークのマンションで、ありふれた毎日を送る未亡人は、静かに雪の降りしきる夜、〈ミリアム〉と名乗る美しい少女と出会った…。ふとしたことから全てを失ってゆく都市生活者の孤独を捉えた「ミリアム」。旅行中に奇妙な夫婦と知り合った女子大生の不安を描く「夜の樹」。夢と現実のあわいに漂いながら、心の核を鮮かに抉り出す、お洒落で哀しいショート・ストーリー9編。
目次
ミリアム/夜の樹/夢を売る女/最後の扉を閉めて/無頭の鷹/誕生日の子どもたち/銀の壜/ぼくにだって言いぶんがある/感謝祭のお客

解説
カポーティの短編は、暗く、冷たく、内向的なものが多い。狂気、無意識の闇、生きる恐れ、都市の疎外感、オブセッション(妄執)といった人間の心の負の部分にこだわる。孤独癖の強い人間が見る白昼夢のような、現実とも夢ともつかない淡い幻影の作品が多い。ときには病的ですらある。カポーティは、外部社会の現実に向うというより、自分の心の中の秘密の部屋へとゆっくりと降りて行こうとする。
(中略)
カポーティは、そうした意識の不確かさ、複雑さ、不安定さこそにこだわった。確固たる信念、揺るがない自己を持った強い人間よりも、その逆の、ちょっとした日常の出来事からあっというまにむこう側へ連れ去られていってしまう“取り憑かれやすい”人間を愛した。これはもしかしたら、カポーティがホモセクシュアルの作家だったことと関係があるかもしれない。
(中略)
闇に対する恐怖と親密感。カポーティの作品にはそのアンビバレンツ(両義性)がある。それが作品を豊かなものにしている。
(中略)
カポーティの後年の荒れた生活を思うと、アラバマの少年時代を描いた無垢な短篇のいくつかが、カポーティ文学のなかでとりわけ貴重なものに思えてくる。カポーティはそんなことは不可能とは知りつつ、またいつかアラバマの少年時代に戻りたいと夢見ていたのではないだろうか。

─川本三郎(翻訳者)


子どもの頃に過ごしたアラバマと、作家としてデビューし、その後の生涯を送ったニューヨークを舞台にした二つの世界の物語。やはり私はアラバマでのイノセントな話のほうが好きだ。特に「感謝祭のお客」は、クリスマスものと同じくミス・スックが登場するので、<イノセント・ストーリー>シリーズのひとつといっていいだろう。人間の悪意をまるで知らない、親友であるおばあちゃんイトコのミス・スックと、カポーティ自身であるバディ少年の間柄は、ここでもやはり心温まるものである。

とはいえ、ニューヨークを舞台にした作品も、カポーティの漠然とした恐怖や、人生に影響を与えてきた事柄が見えてきて面白い。解説にもあるように、そのほとんどは「狂気、無意識の闇、生きる恐れ、都市の疎外感、オブセッション(妄執)といった人間の心の負の部分」について描かれているが、まるでゴシック小説のようでもあり、またファンタジーのようでもある。なにか、カポーティが抱えている精神的な闇が表面に現れてくるような感じだ。

カポーティは「私の子ども時代には大きな愛情の欠落があった」と語っているが、たしかに両親の離婚で、大きな精神的な打撃を受けていただろうし、その影響が作品に表われているのは当然のことだろう。しかし、預けられたアラバマの親戚の家で、永遠の友となるミス・スックに出会い、共に生活したその数年間は、彼にとっては最も幸せな時期だっただろうと思える。それもまた作品によく表われているし、そこに戻りたいというカポーティの気持ちも、切ないほどに伝わってくる。

さて、アラバマのミス・スックとの生活を描いたものはもちろん大好きだが、この短編集の中で、特に面白いと思ったのは「銀の壜」だった。ぼく(語り手)が学校が終わったあとに手伝いをしているおじさんの店で、大きなワインの壜に小銭をつめ、中に入っている金額を当てた人には、クリスマスにそれを進呈するという企画を始めた。ある日アップルシードという貧しい男の子と、ミディという妹がやってくる。アップルシードは、絶対に当ててみせると言い切って、毎日その壜の中のお金をじっとみつめているのだ。彼は女優になりたいという乱杭歯の妹のために、きれいな入れ歯を買ってやりたかったのだ。さて、結果は・・・。

結末が近づくのが本当に怖かった。当たるのか、当たらないのか、一体どっちなんだろう?と、ハラハラ、ドキドキである。見守っている「ぼく」の気持ちもそうだが、読んでいるほうも気が気じゃない。また、南部の町や店の内部の描写や、人々の暮らしぶりも詳細に描かれていて、非常に面白かった。

2003年11月30日(日)
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