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■ あるクリスマス/トルーマン・カポーティ
内容(「BOOK」データベースより) 父さんと過ごした最初で最後のクリスマス。『あるクリスマス』の前年、トルーマン・カーポティは父を失っている。触れあうことの少ない父子だった。カポーティ自身、すでに酒とクスリに蝕まれていた。この作品の翌々年、彼はこの世を去る。最後にみる夢、だったのかもしれない。
カポーティの作品の中でも、特に好きな<イノセント・ストーリー>シリーズの1冊。 両親の離婚で、赤ん坊のときから親戚に預けられ、すっかりそこに馴染んでしまっていたバディー少年は、ある年のクリスマス、父親のもとで過ごすことになった。つまりその年は、父親が子どもと過ごす権利を得たというわけだ。初めて訪れるニュー・オーリンズ。そこにいる人々も、食べ物も、いつも暮らしているアラバマとは大違いだった。居心地が悪いが、父を傷つけまいと努力するバディーと、一生懸命に息子を喜ばせようとする父親。けして噛み合うことのない歯車が空回りする。
その頃バディーは、まだサンタクロースの存在を信じていた。田舎で一緒に暮らしている年の離れたイトコであるスックから、そう教わっていたからだ。しかしニュー・オーリンズで、その夢はもろくも崩れてしまった。父からの山のようなプレゼントを開けながら、それは父からだと知っているくせに「パパのプレゼントはどこ?」と聞くバディー。なんて小憎らしい!けれども、それがサンタクロースの夢を壊されたバディーの、せめてもの仕返しだったのだ。
父親もまた苦悩していて、息子を返さなくてはならない日には、正体もなく酔っ払い、苦しみをあらわにする。「パパを愛していると言ってくれ」と何度も何度も口にするが、バディーは答えない。ほんとに小憎らしい!
けれども家に帰ってから、バディーはこんな手紙を書く。
「とうさん元気ですか、僕はげんきです、ぼくはいっしょうけんめいペダルこぐれんしゅうしてるので、そのうちにそらをとべるとおもう、だからよくそらをみていてね、あいしてます、バディー」
そう、クリスマスに「パパのプレゼント」として改めて買ってもらった、ペダル式の飛行機のことを書いたのだ。
本書が出版された前年に、カポーティの父親は亡くなっている。本当はお互いに必要とし、求め合ってもいたのに、ついに心を通わすことのなかった父と子。その思いをつづった作品と言えるだろう。最後の手紙で、胸がつまった。ここには書かれていないが、ああしておけばよかった、こうしておけばよかったというカポーティの思いが、痛いほどに伝わってくる。大人になってからも、少年の頃の気持ちのまま、こうした物語が書けるのは、カポーティくらいのものではないだろうか。
2003年11月24日(月)
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