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 あなたが私を見つける所/アン・ビーティ

内容(「BOOK」データベースより)
いつの日か、本当の愛に出会える。透明感あふれる硬質な文体で、現代人の心の奥底に潜む喪失感、愛への飢餓感を鮮やかに映し出す。現代アメリカ文学を代表する作家の珠玉の短篇集。

目次
カード
コニーアイランド
ハイスクール
今度はいつ会えるの?
広い外の世界
骸骨
白い夜に

時の流れ
アンドリアのお護り
スピリタス
サマーピープル
木の上から
夏の夜の楽園
あなたが私を見つける所


<訳者あとがきより>
ビーティが描く人びとは、ほとんど例外なくアメリカ社会のなかでアパーミドル・クラスに属し、物質的には何も深刻な問題を抱えていない人びとである。幸運にも衣食住の問題や、際限のない物欲から比較的開放されている彼らは、好むと好まざるとにかかわらず、自分の心と相手の心を執拗に、深く洞察するようになる。そして彼らはみな、たとえ一瞬であれ、本物の心と心が確かに触れあう奇跡の瞬間を待ち望んでいるのだ。ビーティの作品にそこはかとなく漂う気品と透明感は、そのまま登場人物たち自身の気品と透明感にほかならない。

<訳者あとがきより(2)>
女と男のかかわりのなかで、子がかすがいになることなど、いまのアメリカではまずあり得ないといっていい。ふた親が揃っているに越したことはないが、最も大切なのはそのふたりの関係だと、アメリカ人の多くは考えている。子供を険悪な仲の両親のもとで育てるくらいなら、むしろ片親のほうがいいと、ほとんどの人が信じているのだ。


先日読んだ『燃える家』に比べたら、本書のほうが視点が面白いように思う。『燃える家』のほうは全ての作品が、崩壊した家庭、離婚と不倫が当たり前の話ばかりだったが、本書はそういうわけでもなかった。とはいえ、やはり離婚や不倫は当たり前で、いくら「子供を険悪な仲の両親のもとで育てるくらいなら、むしろ片親のほうがいい」とはいえ、険悪になった原因は、やはり親のほうにあるのだし、それを修復する努力はまるでないから、子はかすがいではなくても、親の身勝手をそのまま受け入れざるを得ない子供の気持ちはどうなんだろう?と腑に落ちない。

離婚も不倫も、自然の成り行きとして「しょうがないこと」と捉えているのが、やはり個人的には馴染めない。そういったことを否定するわけではないが、自分の生活に起こって欲しくないという思いが強いのだろう。そんなことが「当たり前に」起こってたまるか!という気持ちだ。これはどうしても拭えないので、そこがネックになって、アン・ビーティの作品を受け入れられないのだろうと思う。懸命に生きている男女の話なら、「いつの日か、本当の愛に出会える」というコピーを見て、がんばれ!と言えるのだが、本書に描かれているような男女には、勝手にやれば!と読むほうも捨て鉢になってしまう。

『燃える家』の感想でも書いたが、本書でも結末がやはり「え?」という感じだ。「え?」というのは、「えっ!」ではないから、意外な結末に驚いたというようなことではなくて、なんでこんなところで唐突に終わるんだろう?という肩すかしをくらった感じ。せっかく盛り上がってきたかなと思うと、あれ?という感じで終わる。なので、どれも印象に残らない。だいたい短編を続けて読んでしまうと、どれも記憶に残らなかったりするのだが、こういう終わり方をされると、非常に欲求不満になる。

ただ、いろいろな視点から書かれていた点で、『燃える家』よりは救われた気分がする。「現代アメリカ文学を代表する作家」と評価も高いアン・ビーティだが、私に読み取る能力がないのだろうかと思う反面、誰に聞いても面白いとか好きだという言葉を聞いたことがないので、自分の中でどう判断したらいいのか迷う。

例えば、嫌だな、嫌いだな、読まなければよかったなどという感情も、何も感じないよりはずっと記憶に留まっていいのだろうとは思うのだが、アン・ビーティはどうですか?と聞かれたら、個人的にはオススメはできない。文学的にうんぬんというより、読んでいい気分にならないからだ。また、どんな内容でも、読んで気持ちのいい文章というものもあるが、そういう文章でもないし。これも好みかもしれないが。

ちなみに、本書のほうが『燃える家』よりも「ダロウェイ夫人度」は高い。翻訳の問題もあるだろうか。一文が短いので、日本語にすると切れぎれの感じがして、『ダロウェイ夫人』ぽくなる。特に現在形で訳されると、ますます似てくる。

2003年11月03日(月)
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