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 Witch Child/Celia Rees

内容(「MARC」データベースより)
「私のおばあさんは魔女として拷問され殺された」。17世紀中頃に書かれたメアリーの日記による物語。魔女の血をひく娘として迫害を逃れ新大陸へ脱出したが、そこでもまた…。


イギリス。時はピューリタン革命後、クロムウェルの息子が護国卿として国を治めていた時代。祖母によって育てられたメアリーは、両親の名前も顔も知らない孤児。他に身寄りもなく、祖母が魔女であるとして処刑されたあと、祖母に面倒を見てもらったという人の助けで、アメリカに渡ることになる。

過酷な航海、初めて見るオーロラや鯨。嵐の中で産気づいた妊婦を助け、死んで生まれた子供を助けるメアリー。魔女と思われると危険なので、人々の中で隠れるようにして生きているのだが、常に自分は魔女の血を引いていると感じている。船の中で知りあったジャックに友情を感じるものの、彼の運命のビジョンを見てしまい、苦悩する。そして遂に到着したアメリカで、「あなたのことは知っている」と言われる・・・。

約半分ほど読んだが、メアリーが魔女の血を引いていると感じる部分は少ない。つまり中世に魔女と呼ばれた人たちが迫害されていたという歴史的な背景を舞台に、一人の少女の運命を描いているといった感じ。ファンタジーっぽいのかと思っていたら、全然違う世界だった。ただ、主人公のメアリーには魅力がある。ひっそりと生きているのに、とても大きな存在感がある。この先の自分の運命は過酷であるとわかっているし、たった一人で新しい世界に向かわなければならないという試練に、怯えながらもしっかり立ち向かっているメアリーは、とても高潔な少女に思える。船に乗り合せたコーンウェル牧師が、オーロラを見て天国を見たと大騒ぎをしているのに対し、冷静に私には天国には見えないと思っているメアリーの淡々としたところが面白い。


メアリーたちが過酷な航海を経て辿り着いたところは、アメリカのセーラム。しばらくしたのち一向は荒野を開拓し、小さな町を作る。生活も落ちついてきた頃、魔女騒動が持ちあがり、メアリーも何度か疑われたあと、ついに捕らえられるときが来た・・・。

この本はメアリーが魔女であるといった話ではなくて、ほとんどが、祖母が魔女として殺されたためにアメリカに渡らざるを得なかったメアリーの苦難の人生を描いている。最後に祖母のやり方を真似して魔女の技を見せるのだが、そこで初めて、メアリーは本当に魔女だったのか?と思う。最後は周囲の人の助けで森の中へと逃げるのだが、そのあとは続編『Sorceress』へという具合。日記形式で書かれてきた話が、突然途中でぷっつり切れて終わるというのは、必然的にどうなったんだろう?という思いを書きたてられるが、最後の数ページは、のちにメアリーの日記を見つけた人によって書かれたという設定で、時代も現代になっている。

期待していたファンタジーではなく、内容も暗いものだったが、当時の「魔女裁判」というものが、周囲の人の悪意や嫉妬などに基づく、いわれのないものであったことが描かれていて、悪魔や黒魔術といったものは、そういった人間の邪悪な心が生み出したものなのだということを感じた。特にその時代のキリスト教の牧師や宣教師といったものが、その最たる者として描かれているのが興味深かった。キリスト教を布教する目的のもと、邪悪な心も広めて行ったのだろうか。キリスト教に限らずどんな宗教でも、神の教えを素直に広めるのではなく、神の名前を借りて、人間の勝手な解釈を広めているにすぎないという感じがした。そういう意味で怖い話だった。

●メアリーの魔法
メアリーの使った技は、いわゆる魔法とかではなく、今で言う、透視やテレパシーといった「超能力」の一種だと思う。昔の人のほうが、機械に頼る現代の人間よりも、そういった力は持っていたのではないかと思う。それが顕著な場合に魔術とされ、そういった技はキリスト教にとっては非常に不都合であったため(神以外のものが奇跡を行うという意味で)、弾圧されたのだろう。この本では、布教を行っている牧師たちの無能さや、思いあがった傲慢な態度など、許せない部分もたくさんあった。それがすべて真実とは思わないが、そういったことは実際にあっただろうとも思う。いつだって、権威を身に着けた人間が一番愚かで恐ろしいのだ。


2003年10月31日(金)
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