|
|
■■■
■■
■ 風と共に去りぬ(2)/マーガレット・ミッチェル
北軍に包囲された火炎地獄のアトランタを、スカーレットはレットが手綱を引く荷馬車に出産したばかりのメラニーたちをのせてタラに脱出するが、彼女を待ちうけていたのは、母の死、半狂乱の父、荒廃した屋敷と農園であった・・・栄華を誇った貴族的南部文明は、敗戦によって崩れ去り、戦争よりきびしい再建時代が始まる。飢えと戦いながらタラ復興を決意したスカーレットは、金策のため俄か仕立ての盛装に媚をこらしてアトランタにレットを訪ねるが・・・ ─カバーより
2冊目に入ったら、どんどん面白くなってきて、集中してきた。レット・バトラーの助けで、アトランタからタラへと逃げるスカーレットだが、タラに帰ればなんとかなるという思いも、母の死によって、もろくも崩れ去る。それからは今日の食べ物をどうするか、自分がなんとか家族を養わなければならないという重荷を背負って、必死に働く。もう決してこんなみじめで辛い思いはすまいと固く決心し、毎日を必死で生き抜くスカーレット。だが、彼女の心情を本当に理解してくれるものは、レット・バトラーただ一人しかいない。
一難去って、また一難。次から次へと襲ってくる打撃に、ともすればくじけそうになるスカーレットを支えていたのは、タラの土地への執着とアシュレへの愛であったが、優しいアシュレは絶体絶命の状況下では、なんの役にも立たないのだ。意を決してアトランタのレットのもとへと向かうスカーレットだったが、その目的が果たせなかったため、妹スエレンの婚約者ケネディに取り入り、結婚することで家族の危機を救う。
そこから商売の才を発揮し始めたスカーレットだが、周囲のものの視線は次第に冷たくなってくる。この期に及んで、結局彼女の味方につき、彼女を守ってくれるのは、レットであった。しかし事業も軌道に乗り、うまく運んでいるにもかかわらず、彼女の心をさいなむのは、いつまた不幸のどん底に落とされるかという恐怖であった。そんな折、父ジェラルドの訃報を受け取ったところで、この巻は終わる。
この部分では、アシュレとレットの対比が際立ってくる。スカーレットもさらに気の強いところを見せ、けして褒められるような淑女ではなくなってくるのだが、生きるためには手段を選んでなどいられない。もう二度とあんな辛い目には会いたくないという気持ちが強く、孤軍奮闘しているのだ。しかしながら周囲はスカーレットに頼るばかりで、何の助けにもならない。このような状況で、スカーレットのような女性は、嫌でも強くならざるを得ないだろう。誰に頼まれたわけではないが、家族を守ろうという彼女の意志には感服する。
またレットの彼女を何としてでも守ってやろうという気持ちは非常に頼もしく、男はこうでなくちゃ!という思いにとらわれる。たとえ彼が無頼漢だとしても、「スカーレットのためなら・・・」といわれるのは、女冥利に尽きるのではないか。
一方終戦後タラに帰ってきたアシュレは、激情にほだされて、「愛している」とまで言い、スカーレットと激しい接吻など交わしてしまうのだが、あくまでも彼女を拒否するなら、そんな態度はどうなの?という感じ。
スカーレットは戦争が始まってからずいぶん成長したが、最初の結婚の時点では、まだまだ自己顕示欲の強い浅はかな子供だ。自己顕示欲が強いという点では、その後も変わらないが。そういう彼女の性格をよく知っていながら、アシュレのあの行動はやはり残酷だと思う。スカーレットは相手が結婚したくらいで、自分の欲しいものを諦めるような人間ではないから、はっきり言わないとわからないタイプ。だから「どうして言ってくれなかったの」ということになるのだろう。結婚してしまえばわかるだろうなどという考えは、スカーレットには通じないのかも。そうしたアシュレの態度はまた、メラニーに対しても失礼ではないかと思う。
ともあれ、スカーレットはけして誉められる性格のヒロインではない。普通のヒロインらしからぬヒロインだ。でも、今日の食べ物もない、家族を養わなければならない、絶体絶命のピンチに追い込まれたら、私も彼女と同じように、どんなことだってしようと思うだろう。税金をどうしたらいいのかという切羽詰まった現実的な問いに、哲学問答のような答えをするアシュレは、あの状況下ではまったくの役立たずで、私だったらそこで追い出すだろうと思うが、いつまでも夢を見ているスカーレットは、まだ浅はかで、若い情熱を持っているのだと、逆に言えばうらやましくもある。
2冊目に入ってから、アシュレとレットの対比はさらにはっきりしてくるが、でも、この物語を成り立たせるためには、アシュレが必要であることは否定できない。そしてまた、アシュレがいるからこそ、レットの力強さが引き立ってもいるのだろう。レットもスカーレット同様、素晴らしい人物であるとは言い難いが、少なくとも正直な人間ではあり、それが私には好意的にうつる。
次にアシュレとレットの対比がよくわかる文章をあげておこう。
●なんの頼りにもならないアシュレ 300ドルの税金を払わないと、タラを手放さなければならないという絶体絶命の場面で
「けっきょく、どこかでお金を工面しなければならないとはお思いになりません?」 「そう思います」と彼(アシュレ)はいった。「しかし、どこで工面します?」 「それをあなたにおたずねしているのよ」と、彼女はじれったそうにいった。重荷をおろしてほっとする思いは消えた。たとい、どうにもならないにせよ、(ああ、気の毒に!)と、たったそれだけでもいい、もうすこし、なんとかなぐさめのことばくらいかけてくれてもよさそうなものだ。 (中略) 「ぼくは思うのですよ」と、彼はいった。「タラに住んでいるわれわれが、どうなるかということばかりでなく、いったい南部諸州の人間は、みんな、どうなるのだろうと」 彼女は思い切って、いきなり(南部の人間なんか、みんなどうなってもいいじゃありませんか!それよりも、いったいあたしたりは、どうなるのです?)と、どなりつけてやりたくなった。だが彼女はだまっていた。急に、これまでにもないほどの強い疲労感が、再びおそってきたからだ。アシュレはついに、なんのたよりにもならない。 「・・・・一つのゲッテルデンをも目撃するのは、あまりに愉快なことではないかもしれないが、すくなくとも興味のあることですよ」 「一つの何ですって?」 「神々のたそがれです。不幸にも、われわれ南部諸州の人間は、みずからを神と考えていたのです」 「お願いよ、アシュレ・ウィルクス!のんきそうに突っ立って、そんな愚にもつかないことをおっしゃるのはやめてくださいな。あたしたちがふるい落とされようという場合じゃありませんか!」
●レットの真意 「税金のお金は、都合できましたか?まさかタラの戸口に、まだ狼が立っているわけはないでしょうね」 その声には、前とちがった調子があった。 彼の黒い目を見上げた彼女は、そこに、ある表情を読み取って、はじめはびっくりし、とまどったが、やがてふいに、微笑んだ。それは、このごろの彼女の顔には、めったにあらわれない、やさしい、魅力的な微笑だった。彼は、なんというつむじまがりの悪党だろう。だが、ときどき、とてもやさしくなることがある!彼がたずねてきたほんとうの理由は、彼女をいじめるためではなくて、彼女が絶望的になるほどもとめていた金を手にいれることができたかどうか、それをたしかめるためだったのだ。いま彼女は知った、もしまだ彼女が金を必要としているなら、それを貸そうと思って、釈放されるやいなや、彼は大いそぎで、しかも、すこしもいそがぬふりをして、たずねてきてくれたのだ。
●レットから見たアシュレ 「アシュレは、ぼくのような卑俗な人間が理解するには、あまりに崇高すぎますな。しかし、どうか忘れないでくださいよ。ぼくが、あの樫の木屋敷における、あなたと彼の優雅な場面の目撃者だったということを。なぜかぼくには、あのときいらい、彼がちっとも変わっていないように思える。あなただって、そのとおりです。もしぼくの記憶がまちがっていないとすると、あの日の彼の態度は、そう崇高なものではありませんでしたな。そうして現在の彼が、より崇高だとは、ぼくには思えませんね。なぜ、彼は妻子とともにタラを出て仕事をさがさないのです?なぜタラにとどまっているのです?もちろんこれはぼくの気まぐれですが、タラにいる彼にみつぐためとあれば、あなたには1セントたりとも貸しません。男たちの間では、よろこんで女におぶさっている男を呼ぶのに、非常に不愉快なことばがありましてね」
●レットから見たアシュレ(2) 「あなたは彼にとって、絶え間のない誘惑物です。だが、彼は、ああした人種の大部分がそうであるように、いかに豊かな愛よりも、このへんで名誉という名で通っているしろものを重く見る。そして、ぼくから見ると、あのあわれむべき男は、いま、自分を熱中させる名誉も恋も、もっていないらしい!」 「あのかたは愛をもっています!・・・あたしを愛しているという意味です」 (中略) 「もしあなたを愛しているなら、なぜ彼はあなたを、税金つくりにアトランタへなんぞよこしたんです?ぼくならば、自分の愛している女に、そんなことをさせる前に─」 「あのかたは知らなかったんです!考えもしなかったんです、あたしがなんのために─」 「彼は知っていたはずだと、あなたは考えたことがないんですか?」その声には抑圧された野性が顔を出していた。「あなたのいったような意味で、あなたを愛しているとしたら、絶体絶命におちいった場合、あなたが何をするかということくらい、彼にも、わかっていたはずです。あなたをここへ─よりによって、ぼくのところへなんぞこさせるよりも、いっそあなたを殺していたはずだ!」 「でも、あのかたは、知らなかったんですわ!」 「いわなければわからんような人間なら、あなたのことも、あなたの貴重な心のことも、けっしてあの男にはわかりっこない」
●黒人問題 さて、恋愛のことだけでなく、ここでは南北戦争後の黒人の問題についても触れられているのだが、南部の黒人奴隷を解放したはずの北部の人間の黒人に対する差別は、どうも納得のいかないものである。それについて、スカーレットが激怒して思ったこんな部分がある。
「スカーレットは思った。北部の人間というのは、なんというわからずやの、妙ちきりんな人種であろう。あの女たちは、ピーターじいやが黒いからというだけで、自分たちとおなじように敏感に、人の侮辱がわかる耳も感情もないとでも思っているのだろうか。(中略)黒人について、黒人と以前の主人との関係について、なんにも知ってはいないのだ。そのくせあの連中は、黒人を解放するために戦争した。しかも、さて解放すると、こんどは、黒人とすこしでも交渉をもつのを、いやがっている。ただ、南部人にテロ行為をするときだけ、黒人を利用している。黒人を好いてはいず。信用もしていないし、理解もしていない。そのくせ、南部人は、黒人と仲良くやってゆく方法を知らないと、絶えずわめきたてているのだ」
これは南部人の側からの見方でしかないが、黒人を解放した北部人に、その大義どおりに差別意識などがなかったなら、アメリカに今でも人種差別が残っているはずがないだろうとも思う。
2003年08月24日(日)
|
|
|