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■ トルーマン・カポーティ/ジョージ・プリンプトン
内容(「BOOK」データベースより) 「早熟の天才」とうたわれた米国の作家トルーマン・カポーティは、1984年、その60年の生涯を閉じた。「完璧」と評される作品とは裏腹に、彼の一生はあまりにも劇的なものであった。親の愛情に飢え、同性の恋人と愛憎劇を繰り返し、社交界にのめり込み、ハイソサエティの人々に愛され、そして蔑まれ、薬物とアルコールに溺れていく…。本書は、その稀有な作家カポーティの生涯を、彼を知る人々にインタビューし、得られた証言で描き出す「オーラル・バイオグラフィ」―聞き書きによる伝記―である。同じ手法で伝記『イーディ』を著し、高い評価を得た著者ジョージ・プリンプトンは、今回、カポーティの人物像を描くにあたり、彼の親戚、友人、知人、マスコミ・映画・ファッション関係者など、総勢170人以上にインタビューしている。愛情溢れる述懐、悪意を含んだ批評など、証言者による生々しい発現が、カポーティの奇矯な生涯を鮮明に浮かび上がらせる。カポーティの複雑な人物像を描くのに最適と思える手法を用い、当時を知る貴重な写真も満載された、力作伝記である。
この本は、私の手がけた「オーラル・バイオグラフィ」としては3冊目になる。このスタイルの魅力はいくつもあげられるが、何より、生の情報を得られるのが利点だ。たとえば、読者はトルーマン・カポーティの知りあいが大勢集まった会合─カクテル・パーティかもしれない─にたまたま迷いこんだような気になるだろう。グラスを手にして、あちらのグループ、こちらのグループと歩き回って人々の会話に耳を傾ける。思い出、論評、こきおろし、さまざまなエピソード。読者はトルーマンの生きた時間を追って話を聞いてゆける。最初に出会うのは、彼の故郷・アラバマ州モンローヴィルの人々だ。それから波乱に満ちた生涯を辿り、最後はクルックポンドでの彼の追悼式に出席した人々のつぶやきを耳にすることになる─。
─ジョージ・プリンプトン「読者へ」より
<カポーティを知る人々にインタビューし、得られた証言で描き出す「オーラル・バイオグラフィ」―聞き書きによる伝記>ということで、出版されたときから読むのをためらっていたのだが、勇気を出して読んでみたら面白かった。つまり人々の証言とは、いわば「噂話」と同様で、100%真実かどうかはわからないし、誇張もあれば、語り手の個人的な思惑も入っているということだ。それらを総合して全体を通して見てみると、噂の主がどのような人たちと、どのような付き合いをしてきたかがわかってくるというのが面白い。普通の伝記とは違って、順を追って書かれているとは限らないが、「早熟の天才」(アンファンテリブル)の崩壊が、痛ましいほどに描かれている。
カポーティは感受性が強く、あまりに繊細すぎたため、作家などになってはいけない人間だったのかもしれない。いつでも周囲を気にし、自分の持てる力を人に対して与え続けているのだが、たった一つの過ちで、全てを失うこととなる。そのとき、それまで彼が周囲に与えてきたものは、ほとんど戻ってはこない。それがナルシストであるカポーティには耐え難く、命を縮める結果になったと言えるだろう。
本書の手法は面白い。だが、カポーティの苦悩が痛いほどわかるのと同時に、人間の残酷な面を見せつけられた感じだ。たしかにカポーティのやった、あからさまに人を傷つける行為(『叶えられた祈り』で、仮名でではあるが、明らかに個人を特定できる、秘密の事柄を書いた)は良いことではないが、ここでも人間の「無視」と「拒絶」の残酷さには、目をそむけたくなるほど。カポーティの死は、ほとんど自殺に近いと言ってもいいのではないだろうか?人間の「無視」と「拒絶」が与えるダメージは、自殺をするに値する絶望なのだ。カポーティの気持ちが痛いほど感じられて、面白いのとは裏腹に、とても辛い本でもあった。
<参考> 叶えられた祈り/トルーマン カポーティ (著), 川本 三郎 (著), Truman Capote (原著) 単行本: 245 p ; サイズ(cm): 182 x 128 出版社: 新潮社 ; ISBN: 4105014056 ; (December 1999) 内容(「BOOK」データベースより) ハイソサエティの退廃的な生活、それを見つめる虚無的な青年。実在の人物をモデルにして上流階級の人々の猥雑な姿を描いた問題作。カポーティが何より完成を望みながら、遂にそれが叶えられなかった遺作!この小説を発表したカポーティは、社交界を追われ、破滅へと向かっていった。
2003年08月09日(土)
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