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 Firefly Beach/Luanne Rice

冒頭を読んでいたら、面白くてそのまま読み始めてしまった。

1969年のクリスマスに、クッキーを焼いている母と幼い娘二人。母のお腹には三人目の子供。しかし、突然銃を持った男が現れ、自分の妻を奪った彼女達の父親に復讐するため、子供を殺すと言い出した。結局男は復讐が果たせず、自分に銃を向けて自殺する。幸せな家族を襲った突然の恐怖。そしてまさにその時家族を騙して不在であった父親に対する絶望。

さあ、これはどうなってしまうのか?もちろん、不倫父とは離婚でしょうね。そのあたりのことは一切触れられずに、話はいきなり2000年まで飛躍。今や、当時5歳だったキャロラインは36歳、妹のクレアは34歳、お腹の中にいたもう一人の妹は30歳となっている。妹二人はすでに結婚しているが、キャロラインはいまだ独身。称して「die-hard singleness」。これは、そのキャロライン・レンウィックの物語。

ところが、父親が全然出てこないので、てっきり離婚されたかと思ったら、7年前に胃がんで亡くなっていたらしい。ということは、クリスマスの出来事のあと、どんな修羅場をくぐってきたのだろう?画家であったという父親像が全く見えない。

と思ううちに、自殺した男の息子ジョー・コナーが出てきて、実はキャロラインとずっと文通していたというから驚き!彼は沈没船の宝を探しているトレジャー・ハンターだという、これまた荒唐無稽な設定。しかも、キャロラインが子どもの頃に宝があると書いて送った手紙に触発され、それを探しているというのだから、ロマンチストもいいところ。このあたりの設定は笑えるかも。

で、読了はしたものの、何も残らない話だった。面白いのは冒頭だけだったりして。状況は結構すごくて、冒頭の恐ろしい事件のほかに、末娘が狩りに出かけ、鹿と間違えて男を銃で殺してしまう。男が飼っていた犬はそのままレンウィック家に引き取られ、結局末娘はそれがトラウマとなり、アル中になって自殺未遂や事故などを起こす。その末娘が結婚した相手というのが、とんでもない男で、姑にまで暴力をふるう。そのほかジョー・コナーの義理の弟がサメに襲われたり、これでもかと事件が起きる。けれども、最初の事件はどう解決したのか、不倫をしていた父親と家族の間は、その後どういう関係だったのか、末娘の殺人はどう処理されたのか、そういうことが全然わからないので、すごく欲求不満。

最後にジョー・コナーとキャロラインは恋に落ち、ギリシアへと旅立つのだが(単なる旅行にしては別れが大げさ)、別れ際に、父親の書いた「わたしはみんなを愛している」という文章がみつかり、なにやら皆が幸せな気分になって終わる。芸術家だったという父親の気持ちもよくわからないし、恐ろしい思いをさせた謝罪はないのか?と思うのだが、この母娘、そういうことはどうでもいいらしい。

それにしても、あまりにむちゃくちゃな状況設定ではないか。いくら父親が家族を愛していたとしても、冒頭の恐ろしい事件は、その父親が不倫をしていたために起こったのであり、またジョーにしてみれば、父親を殺したも同然であるレンウィック家なのだ。もちろん母と娘に責任があるわけではないし、彼女たちもまた被害者でもあるのだが。

章の終わりごとに、キャロラインとジョーの文通していた手紙が出てくるが、そもそも文通していたというのも信じられないのに、こともあろうに恋に落ちてしまうとは!もっとも、このシチュエーションで恋愛を描くには、これしかないだろうとは思うが。

それに、あの犬。誤って撃ってしまったとはいえ、末娘にとって、忌まわしい事故の記憶の一部をずっとそばに置いておくなんて気が知れないという感じ。これでは彼女がアル中になったり、なんども自殺未遂をしたりというのもわからないわけでもない。なによりも、こんなにいろんな事件が起きているのに、平然と暮らしていられる家族というのが、私には信じがたい。

結局、宝を積んだまま沈んでいるというカンブリア号は、いまだに沈んだままである。このカンブリア号にも美しい愛の物語があるのだが、そんなことはどうでもいい。ここで宝を引き上げなければ、乗組員に払う給料はどうするの?と余計な気をもんでしまった。

タイトルについているFirefly(ホタル)は、最後にキャロラインが出発するときに、1匹飛んできただけ。一応彼女たちが子どもの頃から住んでいた家がFirefly Hillというところにあるので、ホタルは毎年現れるのだろうが、物語中で出てきたのはその部分だけだった。


2003年07月31日(木)
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