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 小説日本婦道記/山本周五郎

千石どりの武家としての体面を保つために自分は極端につましい生活を送っていたやす女。彼女の死によって初めて明らかになるその生活を描いた『松の花』をはじめ『梅咲きぬ』『尾花川』など11編を収める連作短編集。厳しい武家の定めの中で、夫のため、子のために生き抜いた日本の妻や母の、清々しいまでの強靭さと、凛然たる美しさ、哀しさがあふれる感動的な作品である。
――カバーより

主題は、作者が強調しているように、日本女性の美しさは、その連れそっている夫も気づかないというところに非常に美しくあらわれる・・・というそのことを、小説として提示することにあった。(解説より)


日本文学を読むのは、私としては非常に珍しいのだが、母に薦められて読んだ。確かにこの本を通して、身の引き締まる思いがし、それぞれの話に出てくる女性の心の美しさに、涙さえ出てくる。

この現代にあっては、男を立てるだけが女じゃないとか、これは女性蔑視であるとか言われそうだが、そういうことではなく、夫も子供も親も、自分の愛する者として、愛する人のために我が身を捧げることは、女性蔑視でもなんでもないではないか。私には当然のことと思われる。武士は大変なお役目とはいえ、現代にもそれはあてはまる。家族のために毎日辛い思いをして働いている夫たち、その夫に最大限の愛情を持って接することは、人間として当たり前だ。

ただここで涙が出たりするのは、それを人知れず、夫にも気づかれないようにやってのける無私の心だ。普通ならば、私はこれだけのことをした、だから認めて欲しい、誉めて欲しいと思うだろうが、余計な心配や気苦労を味あわせたくないという、これも深い愛情である。

ここには不倫だの浮気だの、一切ない。そればかりが真実ではないだろうが、一生をそうしてそいとげることは、並大抵のことではないし、変わらぬ愛情を注いで、お互いに忠誠を尽くす夫婦とは、なんと素晴らしいものだろうと思う。自分の欲ばかりを追っている現代社会において、本当に身の引き締まる、美しい話だ。

夫も苦しむ、その夫と妻も一緒になって、苦難を乗りきっていくという姿、それこそが夫婦というものなのだろうと思う。信じ合っていなければできないことである。やってあげたことを認めてくれないなどと文句を言ってはいけないのだ。真の愛情は見返りなど期待しないものなのだから。

冬の寒い朝のように、凛としてすがすがしい、そんな気分になる。それにしても昔の日本語は美しい。昔の女性もまた美しい。そしてまたその美しさに感動する。

<参考>
『日本婦道記』は、昭和17年6月から終戦後の昭和21年まで、総数31編にわたって執筆された読切連作。本書に収められた11編は、山本氏自身が“定本”として選定したもので、他の20編に比べて、とくにすぐれている。


2003年05月30日(金)
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