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 悩める狼男たち/マイケル・シェイボン

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ポールの家の隣に住むティモシーは、ひと癖もふた癖もある小学生。いつもいろんなものになりきってしまう彼だが、狼男はやりすぎだった。女の子にかみついてケガをさせてしまったティモシーは、校長先生に呼び出されてしまい…。

思春期の少年たちが抱える悩みを描いた表題作のほか、不妊症で悩んでいた妻が連続レイプ犯に犯され妊娠、その赤ん坊を産むことに決めた彼女に対する夫の心の動きを描いた「狼男の息子」、そして考古学者が調査に訪れた町で出くわした恐ろしい体験をつづった怪奇小説「暗黒製造工場で」など短篇9篇を収録。

著者は『カヴァリエ&クレイの驚くべき冒険』で、2001年度のピューリッツァー賞フィクション部門を受賞、マイケル・ダグラス主演で映画化された『ワンダー・ボーイズ』などでも知られるマイケル・シェイボン。本作品は短篇集第2作となる。現代のどの家庭にもありそうな、どこかぎこちない家族関係をどうにかして修復しようと試みる悩める人たち。そんな彼らを、ときには温かく、ときには辛辣に描いている。

「狼男の息子」で、冷えきった夫婦仲を元に戻すきっかけを作ったのがレイプ犯であること。出産が遅れている妻に、夫の威厳をなくしていた彼が行った「処置」。そして出産後、赤ちゃんを交え親子3人を看護婦がカメラに収めるシーン。著者の毒のある独特の発想とストーリーには、社会に対するアイロニーが多分に含まれている。(石井和人)

目次
悩める狼男たち
家探し
狼男の息子
グリーンの本
ミセス・ボックス
スパイク
ハリス・フェトコの経歴
あれがわたしだった
暗黒製造工場で


本書に寄せられた賛辞

◆軽妙な筆致と比喩で読者の心をとらえ、華麗な文章で実になめらかに描いている。
―ニューヨーク・タイムズ(ミチコ・カクタニ)

◆シェイボンお得意のウィットにとみ、比喩の中に鋭い観察が潜む文章が鮮烈だ。
―ニューヨーク・タイムズ(マイケル・ゴーラ)

◆うれしい裏切りが読者を待ちうけるスマートな小説。シェイボン特有の風刺が抜群に冴えていて、”風刺喜劇”とでもいうべき貴重な一冊だ。
―ロサンゼルス・タイムズ(リチャード・イーダー)

◆この小説のように、本当に美しい文章にはなかなか出会えない!
―USAトゥデイ(スーザン・ケリー)

◆一流の作家シェイボンは、錬金術師のように目を奪う完璧な文章を創り出す。
―ロサンゼルス・タイムズ(マイケル・キャロル)


通常、本のカバーなどにある賛辞を全部鵜呑みにすることはまずないし、実際それらの賛辞が、作品にすべてあてはまることもないのだけれど、シェイボンに限っては、このままそっくりあてはまる。私がこれ以上何も言うことはないというくらい。シェイボンの持っている錬金術のような言葉の感覚は、他ではあまりお目にかかれないかもしれない。そういうことをあまり気にせずに、ただ早く読もうとして流してしまうと、うっかり気づかないかもしれないが、ここに書かれている比喩やウィットは、シェイボンの素晴らしい想像力がもたらしたものだと思う。

読みながら、イーサン・ケイニンにも似ているかな?という気がしていたのだが、「サロン・ドット・コム」のアダム・グッドハートによれば、「シェイボンはジェイ・マキナニーとひとまとめに論じられることが多いが、それは誤りである。むしろイーサン・ケイニンの方が文体や気質においてずっと近い」とのことで、どうやら私の感覚は間違っていなかったようだ。ケイニンに近いということは私の好みである。ケイニンもそうだが、シェイボンも「詩的」でない、緻密な文章がいい。物語の世界は、個人的にはケイニンのほうが好きだが、シェイボンのほうがクールかもしれない。

上のカバーの文章ではふれられていないが、個人的には一番最後の「暗黒製造工場で」というホラーっぽい話が一番面白かった。というわけで、最近出版された冒険活劇の短編を集めた、シェイボン編集の『McSweeney's Mammoth Treasury of Thrilling Tales』というアンソロジーには、大いに期待できるだろうと思っている。

2003年05月13日(火)
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