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 望楼館追想/エドワード・ケアリー

つねに白い手袋を身につけ、他人が愛したものを盗み、コレクションしている《ぼく》が住むのは、古い邸宅を改造したマンション《望楼館》だ。
人語を解さぬ《犬女》、外界をおそれテレビを見つづける老女、全身から汗と涙を流しつづける元教師、厳格きわまる《門番(ポーター)》・・・・・彼ら奇矯な住人たちの隠された過去とは?彼らの奇行の「理由」が明かされるとき、凍りついていた時間は流れ出し、閉じていた魂が息を吹き返す・・・。
美しくも異形のイメージで綴られた、痛みと苦悩、癒しと再生の物語。―カバーより

これだけは断言できるが、あなたがたいていの名作話題作を読んでいる読書家、もしくは読書の達人で、めったな作品では驚きもしないし感動もしないというのであれば、まずこの作品を読むべきである。これまでにない陶酔感、物語を読む喜びに浸れるとともに、物語の毒(じわじわと効いてきて、その解毒剤はいまのところない)に犯されることは間違いない。「永遠にこの物語が続いてほしい、終わらないでほしい」という感覚、体中がぞくぞくする感覚はもちろんのこと、自分もまた物語の一部になってしまったような感覚を抱くはずである。―訳者あとがきより

原作の「Observatory Mansions」はそのまま訳せば天文館となるが、あえて望楼館とした。天文館という文字には写し取れない多くの意味をこめたつもりである。・・・・・いささか古めかしい名前かもしれないが、本書を読み終わったころには、「望楼館」以外にふさわしい名前はないと感じられるはずである。―訳者あとがきより

あとがきを読むと、この本を読んだ多くの人が、非常に素晴らしいと言っているのだが、私の感覚には今のところマッチしない。幻想文学としてとらえると、江戸川乱歩のようなものかな?とも思うのだが、乱歩のようなわくわく感はない。各章が短く散文的だが、ちゃんとストーリーとしては繋がっているので、それぞれの章をすごく面白いとは感じていないのだが、先に進ませる力はある。けれど、全体的に不気味で気持ちが悪い。個人的にはあまり好まない雰囲気だ。

どこかにアーヴィングのような・・・とあったが、それは全く違うと言っておこう。異形のものというモチーフはアーヴィングにも通じるが、アーヴィングのほうがはるかに物語性が高い。

作者のエドワード・ケアリーには気の毒だが、併読で、デュマの『モンテ=クリスト伯』を読んでいたせいもあって、どうしても面白いとは思えない物語だった。

ストーリーはある。でも、登場人物すべてが、いわゆる普通ではなく、その普通でない人たちの記憶や行動を追っていくことが、ごくごく平凡な人間である私には、非常に辛いというか、不愉快だったりする。

確かにほかの小説とはだいぶ違う趣の小説で、そこに小説家としての才能は見出せるとは思うが、はっきりいって「好みの世界ではない」としか言えない。逆に言うと、こういう小説を好む人(読者)を容易に想像できそうな気がする。

訳者が原題である「天文館」を「望楼館」とした意図を上に書いたが、読み終えてみて、それは余計なことではなかったかという気もした。なぜなら主人公の父親が作った天文台は今でもそこにあり、望遠鏡のレンズは、ある部分で重要な役割を果たしているからだ。

この訳者はまた、あとがきで誉めすぎである。私はあとがきを先に読むタイプだから、これによって過剰な期待を抱かされる。訳者は批評家ではないのだから、良きにつけ悪しきにつけ、読者に先入観を持たせてはいけないと思う。ほとんどが良いと書いてあるに決まっているのだが、それでも、冷静に淡々と書かれているあとがきのほうが、私は好きだ。



2003年03月08日(土)
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