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 モンテ=クリスト伯/アレクサンドル・デュマ

◆恋・陰謀・宝探しそして復讐!全世界の読者に熱狂的に愛読されてきた一大復讐物語。

リチャード・ハリス(ハリポタのダンブルドア役)がファリア司祭役で出演しているというので、読んでみようという気になった。岩波文庫だと全7冊だが、講談社のスーパー文庫というのを買ったら、完訳で全1冊。B5版で4センチ弱の厚さ。小さな文字で3段組のすごい本だったが、何でも分冊にしてしまう日本で、全1冊という潔さが良い!

物語は主人公エドモン・ダンテスが航海から帰って来たところから始まる。状況描写などはほとんどなく、いきなり陰謀の影が見え始める。

というわけで、余計な部分がなく、すぐに物語に引きずり込まれるといった感じで、なるほど当時の大衆に熱狂的に支持された所以はこんなところにあるのだろうかと思った。詩的で文学的な描写など大衆は求めておらず、とにかく面白い話を望んでいただろうから。それは昔も今も同じだと思うが。


[投獄&ファリア神父との出会い]

船主からかわいがられ、次期船長になるだろうといった希望と、愛するメルセデスとの婚約といった幸せの絶頂にあった1等航海士の主人公エドモン・ダンテスは、航海中に亡くなった船長の頼みで、ナポレオンのいるエルバ島に寄ったことから、彼の幸せを妬むものの陰謀により、無実の罪で捕らえられ、政治犯の監獄の島シャトー・ディフへと送られる。

ここにはナポレオンの百日天下といった激動の社会情勢も影響しており、陰謀を企んだ者のみならず、取り調べをした検察官などの思惑もからんで、裁判もなく、自分が何の罪で投獄されたのかもわからないまま、ダンテスは闇へと葬られてしまったのだ。

失意のうちに死のうとまでしたダンテスに生きる望みを与えたのが、狂人と言われている同じ囚人のファリア神父だった。

一気にファリア神父との出会いまで読んだが、評判に違わず、これは面白い!
純粋で正直な若者ダンテスを陥れた者たちも憎らしいが、彼等が利己的で憎らしければ憎らしいほど、ダンテスへの同情が深まる。また愛する人との婚約披露のパーティーの最中に逮捕されるというむごさ!まったくもって悲劇のヒーローである。

そして、獄中にあってなおも「今勉強中じゃ」というファリア神父のすごさ!どうやってペンを作ったのか?穴を掘る道具はどうしたのか?それを知るだけでもわくわくしてくる。このファリアによって、絶望していたダンテスの心に、大きな灯がともったのがわかる。


[ちょうど7分の1]

岩波文庫版を見てきた。岩波では7分冊。ファリア神父がダンテスに宝の地図を見せるところまで読んだので、ちょうど1冊目が終わったところだから、7分の1といったところ。

翻訳を比べてみると、断然講談社の泉田武ニの訳のほうがいい。特にファリア神父のせりふは絶対泉田訳のほうが雰囲気がある。学問や知識が深い様子などもこちらのほうが良く出ている。


[モンテ・クリスト島の宝]

ダンテスに生きる望みを与えたファリア神父には持病があって(何の病気かはわからないが、ものすごい発作が起きる)、今度発作が起きたら終わりだと神父自身が死期を予言する。そのために、持てる知識の全てと、モンテ・クリスト島に埋まっている宝のありかを、ダンテスに伝える。

必ず生きて宝を手に入れ、世の中の役に立てるよう望みを託すファリア。一方、半信半疑ながら、ファリアの教えを受け入れるダンテス。ファリアの思いとは裏腹に、ダンテスはもし宝を入手したら、自分を陥れた者たちに復讐をしようと誓う。

そうするうちに、ファリアに恐れていた発作が起き、遂に最期の時が来た。悲しみに沈むダンテスに思いもしなかったチャンスが訪れ、生きるか死ぬかの脱獄に成功する。

やがて、夢にまで見たモンテ・クリスト島に赴くダンテス。莫大な宝はたしかにあった。

ここのくだりはファリア神父とリチャード・ハリスが重なって、神父の死が胸に迫る。その後の脱獄・宝探しは、ハラハラ、ドキドキで、本当に面白い。この部分の自然の描写も美しく、物語の山場のひとつと言えるだろう。


[復讐の始まり]

莫大な富を得たダンテスは、これまで世話になった人に恩返しをする。しかし父親はすでに亡く、再び復讐の念を強くする。そして、爵位を手に入れたダンテスは、モンテ・クリスト伯と名乗って、いよいよ復讐に乗り出す。

どんな復讐劇が始まるのか楽しみというのは変な言い方かもしれないが、デュマの筆は一向に衰えを見せず、面白さはずっと持続している。3段組の字の小ささも、大判の本の重さも、全然気にならない。面白くて仕方がない。


[謎の伯爵]

モンテ・クリスト伯となったダンテスは、15年近い投獄の末、顔つきが全く変わっていたため、誰にも正体を見破られることなく、彼を陥れた者たちの前に姿を現す。

莫大な富と深い知識によって、不可能を可能にしていくモンテ・クリスト伯。時には船乗りシンドバッドであり、時にはブゾニ司祭であり、時にはヨーロッパ各地に拠点をもつ謎の大富豪として人々に知られるようになる。だが、その正体は誰にも知られることなく、着々と復讐の計画が進められて行く。

ダンテスをボナパルト派であるとして密告したフェルナン(ダンテスの婚約者メルセデスのいとこ。のちに男爵となり、メルセデスにダンテスは死んだと思わせ結婚する)。ダンテスが乗っていたファラオン号の乗組員で、フェルナンに密告をそそのかしたダングラール(のちに銀行家となりこれもまた男爵の地位を得る)。そして、父親がボナパルト派であるため、自分の地位が危うくなることを恐れて、ダンテスを裁判もせずに闇に葬った検察官ヴィルフォール。

これらの敵(かたき)は、殺すだけでは足りないというモンテ・クリスト伯。いったいどのように復讐を遂げるのだろう。敵のまわりにいる人々をも巻き込みながら、外側からじわじわと復讐の手を伸ばす彼は、しかしながら寛大で気前がよく、物腰や態度も立派で、世にも素晴らしい貴族であると賞賛の的となっていくのである。

ここまでで、岩波の3巻が終わって4巻目に入ったくらいだろう。誰も伯爵の正体を見破れないのに、婚約者だったメルセデスだけは、どうやら見破ったようなのだ。それぞれの敵との対面もドキドキするが、メルセデスとの対面は、自分のことのように胸が高鳴った。


[じわじわ進む復讐計画]

まだこれぞ復讐!といった状況ではないが、徐々にじわじわと復讐の計画は進んでいる。敵の息子や娘の恋愛や人間関係なども絡んで複雑な状況になってきたが、いまだに誰もモンテ=クリスト伯の正体を見破れない。誰もが彼を素晴らしい貴族と信頼しており、彼と知りあいになるのを望んでいるのだが、あの手この手で彼らを信用させていく。その緻密な計算がすごい。残りはあと2巻分くらいだが、読み終えてしまうのが惜しい。

各章はそれぞれ短いのだが、ここでやめようと思いながら、もう1章、もう1章と読んでしまう。これぞエンターテインメントだろう。つまらないミステリーなどより、ずっとミステリアスでわくわくする。


[待て、そして希望せよ!]

とうとう読了。
すべての敵に復讐をし終えたモンテ=クリスト伯。当初は敵本人のみならず、子孫まで根絶やしにしようとしていたのだが、それぞれの娘や息子がけして親のようではなく、友としての愛情が芽生えるにつれ、伯爵の決心はぐらつき、苦しみ、悩み、情けをかけずにはいられなかった。

だが、敵そのものには容赦なく復讐を遂げた。その代償は伯爵にも大きな苦しみを負わせるところとなり、最後には富をなげうっても、恩人モレルの息子マクシミリアンに幸せになって欲しいと願うのだった。最後にマクシミリアンに残した手紙には、次のようにあった。

「・・・・・心から愛する子らよ、生きるのだ。そして、幸せになるのだ。そして神が人間に対して、未知の未来の秘密をおあかし下さる日までは、人間の英知はすべてつぎのニ語に集約されていることを忘れてはならない、

待て、そして希望せよ!
   
汝が友
      エドモン・ダンテス
        モンテ=クリスト伯爵」

人間のすることには、良くも悪くも必ず報いがあるということを、いやと言うほど見せつける物語だった。物語の当時の社会では、仇を討つということは正当なことであったので、無実の罪に陥れられ、その間に父を見殺しにされ、婚約者を奪われたエドモン・ダンテスが、復讐をするのは当然のことであった。が、14年の長い年月の恨みは、簡単な仇討ちではすまなかった。

どんな復讐が行われるのか、同じ苦しみとはどのような苦しみなのか、好奇心を持って読み進めるうち、上に書いたように、良いことも悪いことも必ずその見返りはあるということに気づく。神はそれをけして見逃していないということをダンテスは言っているのだ。そしていかに絶望しても、生きて、「待て、希望せよ!」と。さすれば、必ず報われる日が来ると言っているのだろうと思う。

ちなみに本書は全1冊で、岩波文庫では7巻だが、フランス語の原書が最初に出たときは、全18巻だったそうだ。個人的なことを言えば、もし岩波文庫で読んでいたら、こんなに早く読めなかったかもしれない。全1冊だったがために、勢いがついて、先へ先へと進めたような気がする。こういった形の本をどんどん出してほしいものだ。面白い話なら、字が小さかろうが、どれほど分厚かろうが、全然問題ではない。

2003年03月09日(日)
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