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 ファニー・ヒル/ジョン・クレランド

<解説>
1963年、これまで到底おおっぴらな形では出版されないものと一般には考えられていた『ファニー・ヒル』が、初版刊行依頼214年ぶりに無削除のまま、はじめアメリカついでイギリスで再刊され、しかも多くの一流批評家たちによって、この本が大々的にとりあげられ、文学作品として、無視できない古典的な価値ももつものであるといった評価が行われた。

『ファニー・ヒル』は、原題を『ある遊女の回想記』(Memoirs of a Woman of Pleasure)といい、当時流行の書簡体をとり、主人公が語り手となって、自分の経験を物語る仕組みになっている。

イギリスの著名な批評家V.S.プリチェットによれば、問題のホット・パートについては、性行為のよろこびをこれほど優雅に、力強く、かつやさしくえがいた点は、あきらかにクレランドの功績であると言い切り、D.H.ロレンスをはじめ、後世の作家は、いずれも、この点で、みじめな失敗をしたと決めつけている。

アメリカでは、本書刊行後ただちに、いろいろの州の裁判所でその当否が審議された。この審議は慎重を極め、『ファニー・ヒル』の与える社会的影響をあらゆる角度から検討し、ついにこれをワイセツ文書にあらずと断じた。

この本は私の個人的な感想としても、上記にあるようにワイセツ文書ではないと感じた。いささかも下品でいやらしいところがないのだ。あくまでも優雅で、「お金で買われる娼婦」としてではなく、「自分の喜びを語る一女性」としての手記なのだ。女性の立場が社会的にうんぬんということは、ここでは不粋というものだろう。何より、日本語の訳がすばらしい。基本的にはたったひとつのことを描いてあるのだが、バラエティーに富んだ品のある日本語訳が、原作にさらに優雅さを与えているのではないだろうか。


2002年08月04日(日)
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