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 クラップ (BOOKPLUS)/J・W・ディアズ

情熱の国キューバ。
だが国の情勢は私たちが思い描く、強烈な太陽の明るいイメージではなく、あくまでも暗い。食べ物でも薬でも全てが不足しているし、街には娼婦、役人はワイロ、と観光客がサルサのリズムに浮かれている裏で、情勢はどんどん悪化していく。

そんな中、ポン引きで星占い師の主人公リカルド・ファーは、流行の兆しを見せ始めた新種の淋病「クラップ」にかかってしまう。なんとか薬を手に入れようとして、ファーは政治的な陰謀に巻き込まれ、刑務所に送られる。栄養失調で生死の境をさまようファーだが、得意の星占いでなんとか危機を乗り越え、アメリカのジャーナリストによって刑務所から救い出される。

この本を手に取った時、「キューバ」という響きにやはりサルサのリズムと焼けつくような明るい太陽を思い浮かべたのだが、暗い闇を抜きにして、この国の物語はあり得ないようだ。彼らにとってアメリカは天国のようなところ。アメリカのような資本主義の大国は、貧しい国からすれば憧れであり、また憎悪の対象でもある。

いい加減でお気楽そうなファーにしても、明日の運命さえわからない、悲壮なイメージがつきまとう。しかしこんな暮らしの中でも、ファーに信念を貫く強さがあったことに救われる。刑務所から救い出され、アメリカに向かう飛行機の中で、友人たちから柔らかな革の靴をプレゼントされるファー。たった1足の靴に涙を流すファーに、キューバの国民の思いが見てとれはしないだろう。


2001年09月07日(金)
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