ぐずぐずと

 最後にことばを交わしたのは、亡くなる前日。
 仕事について細かい指導を受け、冗談を交わし、小さな愚痴をこぼし、「もう少しかかるから、がんばって」と云った受話器越しの声を忘れられない。


 一夜明けたいまも、ひとりきりになるとぐずぐずと泣いてしまう。
 病との闘い、その苦痛、家族への想い、なにより死への恐怖。
 そんなものを想像したとして、それはやはり勝手な想像に過ぎない。
 わかるはずがない。わかるはずがないのだ。

 だから安易な同情のことばには嫌悪を感じる。
 そしてワタシも、安易に泣くべきではないのかも知れない。


 けれど生が常に当人だけのものではないのと同じように、その終わりもまた、当人だけのものではない。
 確かに同じ時間を共有し、確かに生の一部に関わった。
 その機会が喪われた。その生が喪われた。
 それが、嫌だ。哀しくて悔しい。
 ワタシの感情、ワタシだけの感傷だ。
 利己的で身勝手な、独り善がりの個人的な感傷だ。承知している。
 けれど頑是無い幼子が駄々をこねるように、ぐずぐずと泣くことを止めることができないのだ。
2004年03月12日(金)

メイテイノテイ / チドリアシ

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