petit aqua vita
日頃のつぶやきやら、たまに小ネタやら…

2003年03月05日(水) 『クローン』(楊海×伊角小ネタ)

中国と日本。海を隔てての遠距離恋愛。
現在は通信事情が良くなったおかげで、メールもやりとりできるし、携帯電話で声だって聞けるけれども。
――でも、お互いの肌を、熱を交わし合うこのひとときとは、比べものにならない。
そんな訳で、久しぶりの逢瀬は、自然に激しいものになっていった。

何度も、お互いの心と身体と、熱を分け合って、はじけて。
伊角は、激しく胸を上下させて、くたりと全身の力を抜いた。楊海も、肩で息をして、脱力したように伊角の胸に倒れこんだ。
楊海が汗に濡れた額を恋人の胸にすりつける。甘えたようなそれに、伊角はふわりと笑って、楊海の髪をそっとなでた。
「伊角くん……」
心臓の音を確かめるかのように、耳を胸に当てたまま、楊海は囁いた。
「なんですか……?楊海さん」
やわらかく答える伊角の声の振動を耳に感じながら、楊海はくすくすと笑う。
「なんかさ……すごかったよね、今日。俺は歯止めきかないし…伊角くんはいつにも増してソーゼツに色っぽかったし」
楊海の言葉に、伊角はほんのりと頬を染めながら、やっぱり笑った。
「そうですね……俺が女だったら、間違いなく妊娠したかも」
それくらい、楊海は自分に注ぎ込んだし、自分もそれを欲しがった。まだ、楊海が中にいるのに、その僅かな隙間から、ソレが流れ出ているのが、分かる。

「子供かあ……伊角くんにそっくりな子供だったら、ほしいなぁ」
「俺は……楊海さんに似た子がいいな」
じゃれあうような、言葉のやりとり。

「じゃあ、本当に作っちゃおうか」
「え?」
ひょい、と楊海は伊角を見上げた。
「今は、クローンって方法があるし。この前も、オランダの同性愛者がクローンで赤ちゃんを作ったって話だよ」
それなら、俺や伊角くんにそっくりの子供ができるよ?
どう?と首をかしげると、伊角は少し困ったような顔をした。
「本当に楊海さんと俺の子供なら欲しいけれど……クローンなら、欲しくないです」

濡れて額にはりついた髪をかきあげてやりながら、ゆっくりと、口を開く。
「クローンって事は、楊海さんと同じ姿になるって事でしょう?」
「…まぁ、そうらしいけど」
「だったら、なおさらですよ。俺が愛する楊海さんは、目の前にいる楊海さんしかいないから」
「?」
「俺はひとりしかいないし、楊海さんしか愛せない。…だから、もうひとりの楊海さんなんて、いらないんです。それに、かわいそうでしょう?そのもうひとりの楊海さんには、俺がいないんですから」
愛でるように、触れられる手。棋士の手らしく、右の指先だけは、堅い感触。
「俺のクローンができたって同じですよ。たとえ俺のクローンでも、あなたを愛するのは、きっと許せない」
男にしては細い腕が伸ばされて、楊海の背中にまわってきた。
めったに独占欲を表にしない伊角だが、いま彼が示してくれたのは、まぎれもないそれ。相手がたとえ架空の存在だとしても、その思いだけは、まぎれもない楊海への真実。

純粋すぎるほどの思いに、楊海は軽いめまいを覚えた。…幸せすぎて。
――こんなに、人に想われる事が、嬉しいものだとは、初めて知った。
「…そっか……そうだな。今のクローン技術じゃ、他人の卵子の提供が必要だし、出産も代理母に委任しなきゃならない。……君の遺伝子が他人の細胞と交わるなんて、俺もがまんできないかも」
君と交わるのは、俺だけだから。
楊海は誓うように、縛り付けるように、伊角の白い首筋に吸い付き、誓約の赤い跡をまたひとつ、残した。
眉をひそめてそれを受ける伊角は、その甘い痛みに酔うかのように、ほう、と息をつく。

「それにね……楊海さん。楊海さんがここにいるのは、楊海さんのお母さんとお父さんがいたからでしょう?」
天文学的な確立で生まれる、一人の人間。「楊海」は、その両親があってこその、奇跡のような存在。
「うん?」
「その奇跡を否定するような気がして……クローン技術自体を、受け入れる気になれないんですよ」
…古い人間だって、言われますけど。
でも、楊海につながる存在を否定することは、できない。

伊角は、楊海の背に回していた腕をほどき、両手で恋人の顔に触れた。
「俺達は、男同士だから、お互いの血を引く子供は産めないけれど」
…本当は、分かってる。無理にでも別れて、女の人と結婚してもらった方が、楊海の為だと。……頭では。
しかし、分かっていてもできないほど、自分はこの存在に焦がれてしまっている。
「でも、未来へつながる存在を残すことは……できますよね?」
今にも泣きそうな伊角の表情に、楊海は微笑んで、目から溢れそうな涙を唇でぬぐった。彼の悲しみを、こぼさずに受け止めるのは、自分だというように。
そして同じように恋人の頬を、両手で包み込んで、目を合わせる。
「そうだよ。俺はあの箱の中に。君は、これから幾人と碁を打ってゆく、その棋譜の中に」
それは確かに、残る筈だ。自分たちが行けない、未来まで。そしてその先にある、神の一手までも、繋がってゆくのだ。きっと。
ふたりが生きてきた証は、そこに、残される――――。

ふたりは、どちらともなくお互いを求め、ゆっくりと、深く、キスをした。
その動きが、繋がったままの敏感なソコを刺激してわずかに身じろいでも、それすらも、愛おしむように。









<おまけ>

「……ね、お腹、痛くない?」
「////っ、…こんな時に何てコト言うんですかアナタはっっ!!」
「や、伊角くんがお腹壊さないかって、心配したんだよ。何しろ、子供ができるか〜ってくらい、中にしちゃったし」
「楊海さんっっ!!」
「やっぱりお風呂行こう。そこでゼンブ洗ってあげるから。ここも、そこも、掻き出して…撫でて…キレイにしてあげる♪」
「風呂くらい一人で………っっっ!!」
「ほら、立てないでしょ?やっぱりお姫様はだっこされてなきゃvv」
「………………………////っっ」
「キレイになったら、ベッドのシーツも取り替えてあげるよ。ぎゅっと抱きしめてあげるから、一緒に眠ろう」
「……離さないで、くれます?」
「頼まれても、離せない」
「……なら…………良いデス……………」

「うん♪今日はいっぱいしたから、一休みして、また明日の朝、愛し合おうね♪朝日の中っていうのも、燃えるよ♪」
「……………………今ちょっと後悔したかも……………」


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