+シコウカイロ+
此花



 月の無い夜に。

月の無い夜

影法師と出かけた

僕と君と影法師。

ガス灯が点々と
道の端を青白く照らして
僕らは誰も居ないレンガ敷きを
ヒタヒタと裸足で走りぬけた

正面から潮の香りが漂って
僕らは真っ暗な海辺に出た

うねる黒い塊を見ていると
僕が何処に居るのか判らなくなってきて
不安顔の僕を君が覗き込んだ

「怖がることなどないさ」

夜風に澄んだ声が透る
青白い明かりに
白い肌が寒々しい

「君も僕もここから生まれたんだもの」

黒い波間から絶えず響く波音が
僕を何処かへ
連れて行こうと手を伸ばす
僕は何処にも行きたくない
僕は何処にも還りたくない


月の無い夜に


「また次の新月に会おうね」


君はそう言って
月の無い夜よりも
真っ暗な海の中へ
溶けていった


青白いガス灯の下に
残ったのは僕と影法師

僕を誘う君と波音を振り切って
僕はまたレンガ敷きの街の中へ
走っていった

2005年05月04日(水)
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