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優勝をかけた大一番、大学ラグビー伝統の一戦は、 赤黒圧倒的有利の戦前予想を覆し、完全に紫紺の 重戦車軍団に支配されていた。 逆転してもすぐに再逆転を許し、突き放される。 前半終了時点で14-22の劣勢。
後半も開始早々、突き放しのトライを決められ出鼻を挫かれる。 その後、赤黒ジャージーはやっと自慢のバックス陣が機能し始め、 2トライを挙げる追い上げムードに。しかし、マイボールの ラインアウトをことごとく奪われ、26分には逆に決定的とも 言えるトライを許し、追い上げムードに冷や水をかけられる。
26-34。 この時点で時間は残り15分を切っていた。 1トライ1ゴールの7点でも追いつけない点差。 しかもこの時間に至っても重戦車のデイフェンスは 劣えることを知らず、鋭いタックルで赤黒の突破を許さない。
負けてもこの点差なら赤黒の優勝は揺るがない。 けれど、圧倒的不利の下馬評の中での早慶戦で大勝。 対抗戦3連覇を狙うタイガー軍団の連勝を20で止め、 若きカリスマ監督の下で「完全復活」と謳われる 赤黒フィフテイーンには全勝優勝がふさわしい、 と例年よりも割合が多めだった赤黒ファンは思っていただろうし、 他でもない選手達自身がそう思い込んでいたのだと思う。
敵陣に入り込み攻め続けても、思うように前に進めない。 本当に等しい人数で試合をしているのか、と思わず 疑いたくなるほど、紫紺の防御網は固かった。
35分経過。36、37分・・・。 終了時刻は迫りつつあった。 もはや総立ちとなったスタンドで赤黒ファンは 誰しも半ばあきらめかけていたと思う。 ただ一つ、心に引っかかっていたのは、 点差を少しでも縮めたい後半に、度重なる相手の 反則を得ても、赤黒は一度もペナルテイーゴールを 選択しなかった事だ。 まさか、それが最後の伏線になるとは露知らずに。
翌日の新聞記事で知ったのだが、依然としてゴール前で 一進一退の攻防を続けていた後半39分、インジュアリー タイム「4分」という掲示がボードに点灯された。 選手、観客の誰もがそんなことには気付かなかったはずだ。 ただ、その「4分」という掲示に1人勝利の女神がホンの 少し気まぐれを起こしたのかもしれない。 赤黒ジャージーが、今まで破れそうで破れなかった ディフェンスラインをするすると抜け出したのはその時だった。
33-34。1点差。 怒号のような歓声。 しかしゴール後は相手のキックオフ。 ボールを奪って攻撃に入るには時間が足りなかった。 もしタッチに逃げられ試合を切られたら・・・。
しかし、その時の国立競技場は異様な雰囲気に包まれていた。 スタンドを埋め尽くした5万2000の観衆の誰もが「まさか」 とは思いつつ、その奇跡の瞬間を一目みたいと願っていた。 はたして、その気持ちがレフリーに伝わったのか、なぜか 赤黒のキックオフで試合再開。その時はそうとしか 思えなかったのだが、翌日の新聞によれば、 それはトライ時の相手の反則によるものだった。
出来過ぎていた。 安いドラマだってこんな出来過ぎた結末は用意しない筈。 22メートル地点で相手の反則。 最後の最後でのペナルテイーゴールの選択。 全ては必然に包まれていた。 その楕円球がゴールに入るか入らないか、 そんな選択はありえなかった。
ノーサイド。 タイムボードには4が4つ並んでいた。 36-34
紫紺ジャージー、「タテ」のメイジ。 赤黒ジャージー、「ヨコ」のワセダ。 両校が12月の第一日曜日、国立競技場で激突する 伝統の早明戦はこれまで幾多の名勝負を繰り広げてきた。 しかし、この日の試合は長い伝統をもつこのカードで おそらく史上最も劇的な結末だった。 ちょうど一ヵ月後、またこの国立で、一層逞しさを増した 赤黒フィフテイーンに再会するのが楽しみでならない。
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