2007年03月01日(木) |
宴のあと・ハリウッドの衰退 |
筆者によるアカデミー賞予想の的中は監督・主演女優・主演男優・助演女優・脚本・脚色・美術・編集・視覚効果・メイキャップ・音響・音響編集・長編ドキュメンタリーの13部門である。昨年が18部門、一昨年が15部門だから今年は不調だった。
今年の授賞式を見た率直な感想は映画の都ハリウッドの凋落振りである。これこそが真の「不都合な真実」なのかも知れない。念のために言っておくがここで言う”ハリウッド”とはアメリカ映画全体を指しているのではない。メジャー以外のインディペンデント(独立系)映画(例えば「リトル・ミス・サンシャイン」)は元気だ。 作品賞は香港映画のリメイク「ディパーテッド」が受賞したわけだが、リメイク作品が受賞するのは1959年の「ベン・ハー」以来ではなかろうか。それに「ベン・ハー」はハリウッド製サイレント映画のリメイクだったわけだが今回はなんとアジア映画の焼き直しである。それも劣化版。実に情けない事態ではないか。昨年の監督賞は「ブロークバック・マウンテン」、作品賞が「クラッシュ」とインディーズ系が独占したし、3年前に大量受賞した「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」はニュージーランドの監督がニュージーランドのスタッフで撮った映画である。もはやハリウッドのメジャー会社には優れた映画を企画する力が失われているのではなかろうか。
衰退した映像メディアはオリジナルが減り続編やリメイクに頼る。この法則に当てはまるのが日本のテレビ・ドラマだ。黄金期には山田太一、向田邦子、市川森一、倉本聰らの素晴らしいオリジナル・シナリオによる重厚なドラマがあった。ところが現在はどうだ。漫画のドラマ化が主流となり、リメイク(白い巨塔・華麗なる一族・砂の器)や映画の後追い(セカチュウ・いま、会いにゆきます・愛の流刑地)ばかりである。同じ現象がハリウッドでも起こっている。
アカデミー賞に話を戻そう。主演女優賞を受賞したヘレン・ミレンは英国人だし、他の候補者、たとえばジュディ・デンチとケイト・ウィンスレットも英国人、ペネロペ・クルスはスペイン人である。アメリカ人はメリル・ストリープしかノミネートされていなかったのだ。助演女優賞に目を向けると菊地凛子が日本人、アドリアナ・バラッザがメキシコ人、ケイト・ブランシェットがオーストラリア人といった具合である。実に国際色豊かだ。
さらに撮影賞・美術賞・メイクアップ賞を受賞した「パンズ・ラビリンス」はメキシコ映画である。「ブロークバック・マウンテン」「バベル」と2年連続で作曲賞を受賞したグスターボ・サンタオラヤはアルゼンチン生まれでスペイン語のロックを世に出すことに貢献した人である。だから今年はアジアや中南米の台頭を象徴するオスカー・ナイトであったとも言えるだろう。
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