エンターテイメント日誌

2006年12月12日(火) 人類の子供たち

原題'Children of Men'を「トゥモロー・ワールド」という邦題にした東宝東和宣伝部のセンスは醜悪である。

さて、この「ハリーポッターとアズカバンの囚人」のアルフォンソ・キュアロン監督の最新作の評価はB+。傑作である。まずキュアロンの朋友、撮影監督エマニュエル・ルベツキによる映像が素晴らしい。あんな凄い長回しは観た事ない。未曾有の体験である。都市の場面が曇り空の沈んだブルーで統一され、郊外の森に場所を移すと日の光の差し込む明るいグリーンに変化するという色彩設定も見事である。テレンス・マリック監督の「ニュー・ワールド」に引き続きルベツキは卓越した仕事をした。是非オスカーを獲って欲しい(つい先日発表されたロサンゼルス映画批評家協会賞でルベツキは撮影賞を受賞した)。

原作を換骨奪胎して全く別の作品に仕上げた脚色もいい。これは21世紀の黙示録である。物語は明らかに聖書を意識している。キーが主人公にお腹の子供の父親は誰かと尋ねられ、「私は処女よ」と答える場面はイエスを身籠ったマリアであり、脱出劇はモーゼの出エジプト記を彷彿とさせる。そして最後に迎えに来る船「トゥモロー号」はノアの箱舟だ。でこの映画の真骨頂は将来生まれてくる新世紀のイエスが黒人だということだ。黒人のイエスを守り抜くために沢山の白人がバッタバッタと死んでゆく。つまり白人中心の社会が滅び、やがで第三世界の時代が来ると予言しているのである。白人のマネーを使い、メキシコ人監督がこんな作品を撮った。その事実が実に痛快なのである。

最後に、キュアロンが「ハリー・ポッター」シリーズに復帰する際は是非撮影監督にルベツキを!!


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]